研究課題/領域番号 |
24000010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋本 和仁 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (00172859)
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研究分担者 |
中村 龍平 理化学研究所, 環境資源科学研究センター, チームリーダー (10447419)
中西 周次 大阪大学, 太陽エネルギー化学研究センター, 教授 (40333447)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2016
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キーワード | 細胞外電子移動 / 代謝経路制御 / 微生物エネルギー変換 / 生体電子移動ダイナミクス / 電気化学的制御 / 微生物腐食 / 集団同期能現象 / 光合成細菌 |
研究実績の概要 |
研究課題1-細胞内電子伝達経路の電極電位制御 これまでに開発してきた生体親和型電子伝達ポリマーを用いた光合成細菌シアノバクテリアの電気化学制御に取り組み、このポリマーが電子伝達系のプラストキノン(PQ)と電子授受することを突き止め、光合成系D1タンパク質のアイソフォームの発現パターンが電気化学制御可能であることを明らかにした。さらに、昨年度開発した酸化還元電位の低い電子伝達ポリマーを用い、大腸菌への電極からの電子注入と、それによる人工的電子輸送経路の構築を実現した。 研究課題2-生体内電子移動のダイナミクス追跡 光によるCO軸配位子交換反応を用いて特定した鉄酸化細菌が持つ電気合成代謝経路のエネルギー論について検討を進めた。その結果、鉄イオンを電子源とした化学合成代謝と比較して、電気合成代謝条件では、より少ない電子数で細胞増殖が進行することが示された。この結果は、aa3複合体を介して生成するプロトン駆動力の利用効率が、化学合成代謝と電気合成代謝で異なることを示唆するものである。 研究課題3-細胞間情報伝達による集団同期能現象 微生物集団の代謝を同時的に活性化させるシグナル分子の同定へ向けて、引き続き単離・精製の条件検討を進めた。これまでは不安定だったクロマトグラフィーのピーク波形が安定したが、分子の精製度が未だ十分でなく、構造解析には至っていない。一方で、微生物表面酵素の電子移動速度を加速するフラビン分子の機能解明にも取り組み、分子設計により自在に電子移動速度を制御することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題1に関しては、本年度はこれまでにあげた実績を元に、光合成細菌シアノバクテリアにおける電子伝達ポリマーを介した細胞外電子移動の機構を解明すると共に、新しく合成した酸化還元電位の低いポリマーを用いた大腸菌における人工的電子移動経路の構築に成功した。 研究課題2では、今年度は、昨年度までに明らかにした生物学的炭素固定(電気合成代謝)経路の同定を目的とし研究を進めた。CO光応答性の付与、ならびに電子伝達阻害剤を用いた検討により、aa3複合体を介したプロトン駆動力の形成過程、ならびにbc1複合体・NDH1複合体を介した昇圧電子移動反応の追跡に成功した。その結果、電気合成代謝における電子利用効率の算出に成功した。 研究課題3については、シグナル分子の精製が困難であり同定までに時間が掛かっているものの、条件検討は着実に進んでいる。また、微生物が分泌する電子移動を加速するフラビン分子の機構解明においては、得られた知見に基づいた分子構造の制御によって電子移動速度を自在に制御することに成功している。 これら3つの研究課題の進捗状況を総合すると、全体としておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内電子伝達経路の電極電位制御については、これまでにシアノバクテリアを中心に電子伝達ポリマーを用いた生細胞の電気化学制御を実現してきた。最終年度は、種々の酸化還元種を含有した多種多様な電子伝達ポリマーライブラリーを構築し、これを種々の細胞に適用することで、生細胞の電気化学制御法の一般体系化を図る。 また、生体内電子移動計測においては、外膜タンパク質解析ならびに遺伝子発現解析により電気を一次エネルギー源とした生物学的炭素固定(電気合成代謝)経路の同定ならびにそのダイナミクス測定を試みる。 集団同期能機構解明においては、未知なるシグナル分子の同定が不可欠であることから、精製条件の検討をさらに進め、シグナル分子の構造決定を行う。また、細胞外電子移動速度の小分子による制御がシワネラだけでなく、ジオバクター等の他のモデル系においても有効であるか検討する。
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