研究課題
本研究プロジェクトでは、高等動物の情動・行動の発動のメカニズムを、マウス嗅覚系を用いて、分子レベル及び神経回路レベルで理解する事を目的とした。本最終年度では、次の3つのプロジェクトが完成し、いずれも英国科学誌に発表された。1. 嗅覚神経回路形成の基本原理の解明(二次投射)(Nat. Commun., 8, 16011, 2017)一次投射によって嗅球の背側と腹側に分配された忌避と誘引の嗅覚情報は、次に僧帽細胞の二次投射によって、嗅球から扁桃体のCoA及びMeAの領野に夫々配信され、先天的な情動・行動の出力が発動される。胎仔の嗅球へNrp2遺伝子を強制導入する事によって、僧帽細胞にNrp2を発現させるだけで誘引的社会行動を引き起こす、嗅球腹側と扁桃体MeA前方部を結ぶ神経回路の形成が誘導される事を見出した。2. 単一糸球体の光活性化による恐怖行動の誘導(Nat. Commun., 8, 15977, 2017)嗅球表面には約一千個の糸球体を画素とするデジタル画面が嗅覚神経地図として展開している。この中で嗅球背側は、先天的な忌避や恐怖行動の発動に特化している事が知られている。我々は天敵であるキツネの匂いに反応する複数の糸球体の内から、最も反応性も強いものを選び、そこに発現する嗅覚受容体01fr1019にチャネルロドプシンを導入したマウスを作製した。このマウスの嗅球を光刺激すると、強いすくみ(freezing)反応が観察されたが、TMTに対して通常見られる忌避の行動は誘発されなかった。これらの実験により、単一糸球体だけの光刺激により先天的すくみが誘導可能である事、またTMTによって誘導される恐怖行動はすくみ反応と忌避反応に分けられる事が示された。3. 神経活動依存的に生じる糸球体内でのシナプス形成(Nat. Commun., 9, 1842, 2018)嗅覚神経回路の大まかな形成は、出生前の胎仔期に遺伝的プログラムによって完了する。しかし出生直後の新生仔期には、外界からの環境入力によって神経活動依存的な神経回路の精緻化及び、可塑的な修正が行われる。当グループでは新生仔の糸球体で、外界入力依存的にSema7Aが発現し、それが糸球体を肥大させ強いシグナルを中枢に送る事によって、刷り込み記憶が成立する事を突き止めた。この神経活動依存的に生じるSema7Aは、受容体であるP1xnC1の樹状突起における局在が生後一週間に限定されている事から、マウス嗅覚系の臨界期を規定する重要な因子であると考えられる。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Nat. Commun.
巻: 9 ページ: 1842
10.1038/s41467-018-04239-z
巻: 8 ページ: 16011
10.1038/ncoms16011
巻: 8 ページ: 15977
10.1038/ncomms15977