研究実績の概要 |
本研究課題の目的は, シアノバクテリアのKaiタンパク質時計を題材に, 概日時計の最も基本的な発振原理を解明し, さらには情報処理能力を備えたタンパク質ファミリーの存在や生物学的意義について検討することである. 本年度も次の4点に注力して研究を進めた. 1) KaiCのATPase活性とリン酸化サイクルのメカニズム KaiCのATPase活性は, 概日リズムの振動数と比例しかつ温度補償されているという事実からも極めて重要である. 各種変異体を用いた生化学的活性測定を行い, ATPase活性とkinase/phosphatase活性の関係性について詳細に調べた. また, 計測機器(UPLC)の自動測定機能を利用し, 再現性, 感度・時間分解能を向上させることにより, ATPase活性の時間変化を正確かつ再現性よく記録できるようになり, この高精度データから生物時計の時定数を見積もることに成功した. とくに高い再現性をもつ温度切り替え装置を開発し, 懸案であった2つのATPase活性の分別が可能となった. 2) KaiCの構造生物学的解析/生物物理的機能解析 KaiCの諸活性を計測する際, その単量体を安定的に取り扱う技術が必要不可欠となる. 種々の安定化剤についてスクリーニングを行い, 機能を保った状態でKaiC単量体が保持されるよう溶液条件を最適化した. また, KaiC変異体について2オングストロームを切る高精度の構造解析を行い, KaiCに織り込まれている時定数の分子科学的起源の一端を突き止めた. 3) 細胞内でのKaiCリン酸化サイクルの動態 KaiCのC2ドメインにおいてADPがATPと交換されるプロセスが, リン酸化反応を促進することを発見した. 4) KaiC突然変異体の系統的解析を進め, 周期を調整する変異体のほかに, 2つのATPaseの共役の変異体, CIIの駆動力低下変異体を分離し, 解析を進めた. 5) 哺乳類におけるKaiCホモログの探索 昨年度よりも探索範囲を広げて, KaiC様の蛋白質群をスクリーニングした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画は24時間の時定数発生機構と安定した振動発生機構を1つのKaiCタンパク質内に見出すという, 単純であるが困難な解析を中心にしている. 2014年度も様々な困難に直面したが, KaiCの機能構造相関解析(研究分担者秋山グループ : 構造生物学および生物物理学的データを論文投稿・リバイズ中)には大きな進捗が見られた. また, KaiCにおける結合ヌクレオチドとリン酸化反応の解明(PNAS)およびKaiC単量体を安定的に保持する方法(BIOPHYSICS)などを見出している. なかでも構造基盤が一部とはいえ整ったことは意義深く, 今後, 構造情報に基づいた変異体デザインや結果解釈などが進み, 本課題の研究がより進展すると見込まれる. 一方, 近藤による中核となるATPase活性についても, 計測機器の高度化にともなって2つのATPaseユニットを区別できるようになり, これは今後の展開に大きな意味を持つ. また2つの活性に選択性を持つ阻害剤の検討も進展した. さらに, 2つの活性の共役装置の変異体, 振動の駆動装置の変異体などの解析が進展した. 今後詳細な検討が進むと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い, 「KaiCのATPase活性とリン酸化サイクルのメカニズムの解明」および「KaiCの構造生物学的解析/生物物理的機能解析」を強力に推進することができると考える. KaiCのATPase活性とリン酸化サイクルのメカニズムの解明については, 今年度UPLCによる再現性のある解析により可能となった2つの異なった成分の分別法をもとにモデルの検討が可能な測定を進める. また阻害剤についても選択的作用を示す条件が明らかになりつつある. さらに, 今年度新たに確定した2つのユニットの駆動や相互作用を変化させる重要なKaiC変異体を加えることにより, 時計機構の基本的動作を解明したい. また, 今年度はさらに同位元素を用いた高時間分解能な解析法を進展させる. 生物物理的解析については, 蛍光プローブの導入位置が異なる複数のKaiC変異体について, 高感度蛍光計測システムを用いた評価を進めている. ATPase活性の活性中心近傍にプローブを挿入したところ, 変異による時計機能への影響も小さく, 構造変化の揺らぎを計測する理想的な系であることが確認された. この変異体の蛍光揺らぎを詳しく解析し, ATPの加水分解反応と連動した構造変化をリアルタイムで補足することに取り組む. 構造生物学的解析については, 周期の決定を主に担うCIの構造解析を足がかりに, 温度補償性をも含めた概日時計の特徴を担う全構造の解析に力を注ぐ. さらに, これまで解析が進んでこなかった複数のKaiC 6量体間の相互作用を解析し, KaiC分子間同調機構の解析も本格化したい. この機能は安定な概日時計を担保しうる重要な機能であり, その解明は計時機能の解明のため本質的に重要である. また真核生物の計時機構の解明については視点を拡大しスクリーニングを再開する. 着眼点としては時計タンパク質の要件を良く検討し, 重複をもたないATPaseなども計時機構の候補として探索する. また時計タンパクに必要であろう発現のレベルも考慮した検索を進めている.
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