研究課題/領域番号 |
24000016
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
近藤 孝男 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任教授 (10124223)
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研究分担者 |
秋山 修志 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 教授 (50391842)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2017
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キーワード | シアノバクテリア / KaiCタンパク質 / 概日時計 / ATPase活性制御 / 機械式概日時計モデル / 時間生物学 / 構造生物化学 / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
シアノバクテリアの3つのKai蛋白質はATPとともに混合するだけで安定した24時間周期の概日リズムを示す。その振動の周期や温度補償性は2つのATPaseから構成されるタンパク質KaiCが規定している。本年度はこのタンパク質に埋め込まれた概日時計の運行原理を理解するため、KaiCのもつ2つのATPase活性に着目し、以下のような突然変異体を利用したKaiCのATP分解活性の生化学的解析と構造生物学的解析を行い、その基本的デザインを理解することを目的とした。 (1) タンパク質に潜む安定した概日振動の発生機構をその2つの生化学的活性の協働として解明する。 (2) 生命がいかにして24時間という地球の自転周期をタンパク質分子内に記憶したかをタンパク質構造ベースで理解すること。 (3) 真核生物で同様の可能性をさぐること。 今年度は極めて微弱なKaiCのATPase活性を正確に再現性よく測定するプロトコルを確立し、様々な条件下でその変動を解析することで2つの成分を分別することを可能にした。その結果、サイン波の成分をC1ドメインのATPaseが発生し、C2ドメインのATPaseはリン酸化サイクルに連動した矩形波成分となることを示した。一方、24時間周期のエンコード先を調べるため、蛍光プローブの導入位置が異なる複数のKaiC変異体について、高感度蛍光計測システムを用いた評価を実施した。N末端ドメインにプローブを導入したKaiC変異体を中心に、蛍光強度の概日揺らぎと結晶構造の対応を精査し、KaiCの六量体リング構造の内径側と外径側における構造変化の関係を明らかにした。(3)については研究代表者の療養のため十分な解析ができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は1日に10~20個のATP分解という極めて低いが安定性の高いATPase活性の解析を中心に研究を展開した。前年度の測定法の改善によりこの活性を再現性良く測定することを可能としたが、測定できるのは2つのATPase活性の和であり、相互作用の解明には分別して測定することが不可欠である。2つの活性を変異導入により調整してそれぞれを測定することが良く行われるが、KaiCの計時機構が相互作用に深く依存している場合には、この方法で分別することはできない。しかし、2つの成分は異なった温度感受性をもつことが期待できるので、我々は様々な温度条件で波形を正確に評価することで2つの成分の分別を試みた。その結果、2つのATPase活性はペースメーカーとして機能する調和振動とリズムの駆動装置としてのリン酸化サイクルを生じる緩和振動として評価できることを示した。この成果データは概日振動の正確な周期発生機構と全体を駆動する振動発生機構を説明することが可能で、概日時計のデザインについて新たなモデルを提案することとなった(現在論文準備中)。 一方、平成28年度までの研究活動を通して、N末端ドメイン(CI)の高分解能X線結晶構造解析を実施し、KaiCの固有振動数と密接に関係しているATPase活性の制御機構について詳しく検証してきた。結晶中での構造変化が、より生理的な溶液中におけるKaiCのリズミックな運動とどのように対応するかを調べるため、KaiCの高感度蛍光計測を実施した。その結果、6量体リング内径側でATP加水分解に連動した主要な構造変化が起こる一方で、外径側はATP近傍の小規模な構造変化にとどまることが明らかとなり、結晶構造解析から示唆されていたATP加水分解機構を支持する内容であった。 これらの成果は本研究の主要な2つの目的に対し大きな進展をもたらしたものであり、研究は順調に進展していると考えられる
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今後の研究の推進方策 |
28年度には研究代表者の予期せぬ療養のため研究計画の一部が遂行出来なかった。幸いに今後は回復が期待できるので、経費の一部を繰越し29年度に継続する。さらに29年度以降の研究経費も認められているので、特別推進研究の成果をさらに進めたい。 29年度はこれまでの成果をさらに進展させ、概日時計の最終解答を得るべく、以下の研究を計画している。 (1) これまでの特別推進研究からKaiC ATPaseが機械時計のようにペースメーカーとリン酸化リズムドライバーおよび脱進器機構により構成されているとする仮説を示すデータを得ることができた。今後はこれまでに確立した2つのATPase活性の分別して解析する方法をKaiC変異体に積極的に活用し、このモデルの検証を進める。さらにCCDカメラを利用したスクリーニングで作用機構の変異体を利用して、検証のための解析を行う。 (2) C末端ドメインにプローブを導入したKaiC変異体を中心に、プローブ導入位置(全長KaiCの結晶構造)、発振周期、蛍光リズムの振幅、これら3者の対応関係を精査する。 (3) 細胞内におけるKaiC分子時計の機能を明らかにするため、KaiC時計で見出した6量体間での同期機構についてさらに解析を進る。6量体としての同期機構の解明は細胞内機能解明のみならず基本計時機構の解明としても重要である。 (4) 真核生物の時計についても引き続き探索を続けたい。方針については、様々なインフォマティクスの専門家との検討も更に進めたい。スクリーニング条件、あるいは複数の遺伝子のヘテロ複合体が関与する場合はさらに複雑な検討が必要である。また、哺乳類の概日時計研究者と共同研究を進め、真核生物での検定を進める予定である。
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