研究実績の概要 |
概日リズムは「時計」としての特性を備えており、細胞の基本装置である。本計画ではシアノバクテリアの3つのKai蛋白質とATPによって試験管内で再構成される概日時計を利用し、以下を目的とした。1、時計蛋白質KaiCに潜む安定した概日振動発生機構を解明する。2、地球の自転周期をタンパク質分子内に記憶するタンパク質構造を理解する。3、細胞内の生理機能の時間的統合を, KaiC6量体の機能として解明する。4、真核生物で同様の可能性をさぐる。 本研究の遂行により、以下の知見を得ることができた。 (1)KaiC ATPaseによる周期決定と安定した振動発生 : 極めて弱いKaiCのATPaseを高時間分解能で測定し、CIとCIIのATPase活性を分別推定した。これを多くのKaiCの周期や温度補償の欠損体で解析し、時計遺伝子発現に基くモデルとは全く異なる2つATPaseによる機械式時計のモデルを提案した。現在この成果を論文として準備中である。 (2)24時間を記憶するメカニズムの構造生物学 : 多くの周期変異体のCIリングについて2Aを切る高精度の構造解析を行い、「遅さ」の構造基盤および分子科学的起源を突き止めた(Science, 2015)。 (3)KaiC6量体の機能 : 6量体を形成しているKaiCの間には、リン酸化状態を介してお互いの状態を監視・伝達する仕組みが存在し、KaiCの概日振動は細胞内での雑音に対して頑強に設計されていることが示された。 (4)Kaiに対応する真核生物の時計遺伝子探索を行ったが、これはまだ見つかっていない。 最終年度(2017年度)に実施された研究はKaiCの2つのATPase活性の分別推定法の検証を様々な条件で行ない、この方法で推定した2つの活性が実際の計測に一致することを示した。また、KaiAとKaiBの添加による位相を解析し2つのATPaseのカップリングを検証した。なお、本研究終了後は、基盤研究A(代表近藤孝男)および基盤研究S(代表秋山修二)が採択されており、本研究の成果をさらに発展すべく協力して研究を展開していく。
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