研究課題
Mn_4CaO_5クラスターの構造に関して、X線損傷を受けない精密構造を解析するため、X線自由電子レーザーSACLAのフェムト秒パルスX線を利用して、約200個のPSII結晶から分解能2.0Åの回折データを収集し、予備的解析から無損傷の構造が得られた。また、紅藻Cyanidium caldarium由来PSIIの結晶構造解析に成功し、真核生物として初めてのPSII構造を得て、原核生物のPSIIにない新たなサブユニットの構造や結合部位を明らかにした。水分解反応に関わる補因子に関して、フーリエ変換赤外分光法を用い、水分解反応のS3-SO遷移におけるプロトンの放出経路とそれに関与するCl^<->イオンの役割を明らかにした。また、紅藻の表在性蛋白質による水分解反応の制御機構を明らかにした。さらに電子スピン共鳴を用い、マンガン原子に結合する水分子のプロトンを検出し、その構造を明らかにした。酸素発生反応の理論解析においては、Mn(IV/V)=0の活性種における酸素一酸素結合時に1電子移動と電子ペアでの電子移動が見られた。反応における軌道の相互作用解析(軌道とスピンの相関)により、詳細な電子状態変化を議論し、Mnクラスターに関するEXAFSの測定結果との比較検討を行った。また、QMとQM/MM計算により、PSII-OEC周辺の水素結合ネットワークによるMnクラスターの閉じ込め効果について検討し、水素結合構造によりプロトンリリース経路(PRPI, II)の役割を検討した。Mn_4O_4コア構造における混合原子価状態のJahn-Teller (JT)効果について検討し、MnをCa/Srに置換したOECモデルによりCaドーピングのMnクラスターの構造への効果を明らかにした。さらにPSII-OECの人工触媒としての応用についても検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
X線自由電子レーザーSACLAのフェムト秒パルスX線を用いて、多くの結晶から回折データを収集し、S1状態の無損傷構造をほぼ確立できたので、水分解反応の各中間体の構造を解析するための準備ができた。理論解析による酸素発生の反応機構解析、赤外分光法、電子スピン法による反応に関わる各補欠因子の機能解析、基質としての水分子の位置や状態に関する解析も順調に進んでいる。
水分解反応の中間状態のうち、特にS3状態はS1状態から大きな構造変化が起こっているとされているので、単結晶を用いてS3状態の生成条件を確立し、低温でトラップする。得られた結晶をX線自由電子レーザーSACLAのフェムト秒X線を利用して構造解析する。同時にSPring-8のX線を利用して、複数の結晶を用いることでX線ドーズをこれまでの1/10以下に低減させて回折データを収集し、SACLAで得られたS1及びS3状態の無損傷構造を検証し、最終的な構造を決定する。水分解系およびそのプロトン放出経路に関与するアミノ酸残基の部位特異的変異体および同位体置換体を赤外分光法などの分光学的手法を用いて解析し、水分解反応における役割を解明する。特に、チロシンYZのプロトン共役電子移動反応における役割を明らかにする。理論計算においては、水分解反応はタンパク場を含んだプロトン移動や電子移動がMnクラスターでの化学反応と連結し、極めて複雑なシステムを構築しているため、Mnクラスターのみだけでなく、十分に大きなQM領域での計算が必要であるので、Mn_4CaO_5クラスターの周辺環壌をリアリステックに考慮した高精度な電子状態計算(大規模QM/MM算)を実施する。計算結果をこれまでの実験結果(XRD, EPR, ENDOR, IR)と比較検討し、Kokサイクルの初期過程だけでなく、S3->S4->S0の酸素発生過程における正しい(信頼性の高い)分子メカニズムを明らかにする。
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