研究課題/領域番号 |
24220002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石田 亨 京都大学, 情報学研究科, 教授 (20252489)
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研究分担者 |
松原 繁夫 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (80396118)
井佐原 均 豊橋技術科学大学, 情報メディア基盤センター, 教授 (20358881)
吉野 孝 和歌山大学, システム工学部, 教授 (90274860)
菱山 玲子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70411030)
村上 陽平 京都大学, 学際融合教育研究推進センター・デザイン学ユニット, 特定准教授 (00435786)
林 冬惠 京都大学, 情報学研究科, 特定助教 (90534131)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | ウェブインテリジェンス / サービスコンピューティング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,言語サービス(辞書,機械翻訳など)を集積する「言語グリッド」を世界に展開し,国際的かつ持続可能な多言語サービス基盤を確立することである.本目的の達成に向けて,言語サービスの持続的に集積を可能とする言語サービス提供のためのインセンティブ設計,複数の独立した組織による言語サービス基盤の運用を実現する連邦制運営のための制度設計,世界規模で言語サービス基盤を接続するための言語サービスのオントロジー設計に取り組む. 平成26年度は,多くのユーザが言語サービスの改善を行う場合に,各タスクへの動的報酬配分により最終成果物の品質を最大化するインセンティブ促進メカニズムを考案し,計算機シミュレーションでその有効性を検証した.特に,タスク間に依存関係がある場合をマルコフ意思決定問題として定式化し,作業の進捗状況に応じて報酬額を決定している. 連邦制運営では,低品質の言語サービスの提供を防ぐために,ユーザの評判を基に言語サービスを評価するアルゴリズムを考案した.このアルゴリズムでは,ベイズ線形回帰を用いて言語サービスの品質の変化に追随して評価値を推定する.また,突然のサービス停止に伴う障害の連鎖によるサービス提供への影響を分析し,スケールフリーネットワークが障害の連鎖に対して頑健であることを明らかにした. 言語サービス基盤の世界展開では,ウイグルの新疆大学に運営センターを開設し,アジアワイドな言語グリッドの連邦制運営の拡大を実現した.また,欧米の言語サービス基盤との接続のため,欧米の言語資源協会と連携し,各基盤のポリシーに対応できる規約を作成した.この規約に対応したオープン言語グリッドの運用は2015年10月に開始する.さらに,世界規模で共有された言語サービスの個人利用を可能にする,スマートフォン上で稼働する言語グリッド「Language Mashup」を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インセンティブ設計については,インセンティブ維持メカニズム,インセンティブ促進メカニズムの研究を進めており,概ね順調に研究が進展している.前者については,成果報酬方式を用いることで,金銭報酬志向の不誠実な請負者の参加を抑制するメカニズムの考案に成功している.後者については,動的報酬配分によって最終成果物の品質を最大化するメカニズムの考案に成功している. 連邦制運営の制度設計については,自律的連携,協調的評価,自己組織化の研究を進めており,概ね順調に研究が進展しているが,一部自己組織化に遅れがある.自律的連携については,言語グリッドで実際に試みていた連携方式を拡張し,障害時に自動適応しサービスを切り替えるメカニズムを実装することに成功しており,研究は完結している.協調的評価に関しては,ベイズ線形回帰を用いて,ユーザの評判に基づいてサービスを評価するアルゴリズムを考案している.自己組織化については,障害の連鎖とサービスネットワークのトポロジーの関係を明らかにしたが,障害時に復旧するための自己組織化メカニズムに関してはこれからである. 世界規模の言語サービス基盤の構築については,連邦制運営のアジア展開と,欧米の言語サービス基盤との接続を進めており,予定以上の成果を達成している.連邦制運営のアジア展開では,ジャカルタとウルムチに新たに運営センターを設立し,申請以前から運営している京都,バンコクを含めた4拠点を接続し,アジア言語グリッドの連邦制運営を実現した.その結果、東南アジア関連の96言語サービスを含む,225言語サービス(申請時の約2倍)が集積された.欧米の言語サービス基盤との接続に関しては,メタデータ共有メカニズムを開発し言語グリッドへ組み込みを終え,欧州のMETA-SHARE、米国のLAPPS Gridとの接続実験を1年前倒しで成功している.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,本研究は実フィールドである言語グリッドの連邦制運営と,統制実験環境であるAmazon Mechanical Turkやマルチエージェントシミュレーションを密接に結びつけながら研究を進める. インセンティブ設計については,ボランティア志向の誠実な請負者の参加拡大を実現するためインセンティブ維持メカニズムの拡張を図る.具体的には,タスク選択行動を観察することで、ボランティア志向請負者の効用関数を推定し,適切なインセンティブを設計する.インセンティブ促進メカニズムについては,実環境への適用可能性を向上させるために,作業進捗状況の誤認識に対処できるようメカニズムの拡張を図る.具体的には,進捗状況の誤認識を部分観測マルコフ決定問題として定式化し,その上で最適な報酬配分の計算法を考案する. 連邦制運営のための制度設計については,協調的評価について,考案した評価計算アルゴリズムを用いた評判システムを言語グリッドに実装するとともに,不正な評価値を検出するためのクラスタリングに基づく検出アルゴリズムの考案にも取り組む.自律的連携については,ロールモデリングを導入し,障害時に別の機能を提供していたサービスが役割を替えて代替サービスとして振る舞う自己組織化メカニズムの構築に取り組む. 世界規模の言語サービスの構築については,欧米の言語サービス基盤との接続は目途が立っており,平成27年10月には,欧米の言語サービス基盤「META-SHARE」および「LAPPS Grid」と接続したオープン言語グリッドの運営を開始する予定である.また,言語サービス基盤の接続後に発生する問題についても解決を試みる.具体的には,欧米亜の言語サービス基盤が規定した言語サービスインタフェースの違いを克服するために,それらを統合する言語サービスオントロジーを欧米と協議を開始する.
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