研究課題
1. ソングバードは、ヒトと同様に生後発達の過程で社会学習(模倣学習)により複雑な音声を獲得する。発達期の社会的接触の程度により、ソングバードの音声学習の効率が変化すること、さらに前脳でのCREBのリン酸化およびCREB依存的な遺伝子発現が大きく変化することを明らかにした。CREBを介したシグナル伝達が音声学習における社会的接触の効果を媒介するかどうかを明らかにするために、神経細胞選択的にCREBの転写活性が異なるトランスジェニック・ソングバード系統の開発を行った。2. 聴覚系神経回路は周波数情報が各神経回路の位置情報に変換される「tonotopy」の性質を有することが知られている。tonotopyに基づいた精緻な神経投射に関わる分子群の網羅的探索を鳥類大細胞核-層状核神経回路において行った。その結果、tonotopyと相関する遺伝子群の同定に成功した。これらの遺伝子群のtonotopy構築や周波数特異的情報処理における役割を明らかにするために、研究代表者らが開発した鳥類アデノ随伴ウイルス(Avian Adeno-Associated Virus, A3V)ベクターによる強制発現および遺伝子サイレンシング用のウイルスベクターの作成を行った。3. ソングバードでの遺伝子操作はウイルスベクターに組み込み可能なサイズに限定されてきた。より大きな自由度の高い分子遺伝学的技術を確立するために、ソングバードの始原生殖細胞の培養の条件検討を行い、培養した始原生殖細胞でマーカー遺伝子の発現を確認した。
2: おおむね順調に進展している
社会学習(模倣学習・観察学習)を実験室の環境で容易に観察可能なソングバードで、音声学習と関連する遺伝子の探索およびトランスジェニック個体の解析の結果、音声学習における社会学習を媒介するシグナル伝達を同定することに成功した。本成果について論文投稿準備中である。また聴覚情報処理の根幹となるtonotopyと相関を持つ遺伝子群の同定に成功した。これらの遺伝子群とtonotopyの関係を明らかにするために必要な遺伝子導入実験系も順調に確立できており、tonotopy構築の分子メカニズムを明らかにできると期待される。またソングバードがモデル生物の中では、ヒトの言語獲得と最もよく似た社会学習により音声を獲得することから、今後はマウス等と同様な分子遺伝学的操作の確立が必要である。ソングバードの始原生殖細胞の単離・培養技術の条件検討を行い、培養始原生殖細胞でマーカー遺伝子の発現を一部確認することができた。さらに培養条件を検討することで始原生殖細胞の長期培養が可能になれば、crisprやZFN (zinc finger nuclease)などゲノム編集技術と組み合わせることで、精度の高い遺伝子改変ソングバード作成技術の確立が期待できる。
鳥類の分子生物学・分子遺伝学的手法の確立およびこれらの技術を使った実験が順調に進展してる。今後はレーザー内視鏡技術によるイメージング解析手法の改良をすすめ、音声の厳密な時系列情報処理と関わる神経可塑性メカニズムの解析に適用する。さらに鳥類の音声制御系と相同な回路構築をもつ哺乳類の大脳ー基底核回路に注目して、時系列情報処理を必要とする行動の獲得と制御についてもレーザー内視鏡技術を用いた解析を開始する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (10件) 備考 (2件)
Front Neural Circuits
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Cell Stem Cell
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http://www.phy.med.kyoto-u.ac.jp/index.html
http://www.phy.med.kyoto-u.ac.jp/publications.html