研究課題
1. ソングバードに属する鳥類は、複雑な配列規則(一種の文法)のある音声を学習する。音声学習に関与するシグナル伝達を明らかにするために、神経可塑性シグナル伝達のハブとして機能する転写因子CREBに注目し、ソングバードのトランスジェニック個体を作成することで、その活性を操作することに成功した。CREB転写活性を抑制したトランスジェニック群では、聴力は正常であり、生得的な音声であるコール(地鳴き)も変化しないが、ソング(囀り)の学習が障害された。以上の結果はCREBの活性化が音声学習に必須であることを示唆する。2. 哺乳類モデル動物での行動の時系列パターンを解析するために、自由行動を阻害しないワイヤレス方式の神経活動計測技術を開発した。ファラデーケージのような電磁シールド設置が困難な屋外や広いスペースでの計測を可能とするためにデジタル方式(Bluetooth)とし、さらに安定してデータ転送を行うために電気生理データに適したデータ圧縮技術を開発した。その結果、実験動物に搭載可能なコンパクトな電子回路という制約にもかかわらず、ほぼ理論的限界に近い圧縮効率を達成することに成功した。これにより、集団の中で行動する動物個体からリアルタイムに単一ニューロンの精度で神経活動を計測が可能となった。さらに本技術を用いて、自由行動下の個体での視床束傍核からの単一神経細胞記録に成功し、社会的接触により束傍核ニューロンの神経活動が持続的に促進するという興味深い結果を得た。
1: 当初の計画以上に進展している
トランスジェニックソングバードを確立することにより、音声コミュニケーションの獲得・制御・認知について分子遺伝学的な研究が可能となったことで、ソングバードを使った神経科学研究は新しいフェーズに入ったといえる。トランスジェニックソングバードにおけるCREB活性の操作により、音声学習には生得的な音声と異なる遺伝子が関与することが明確に示され、今後は音声の時系列情報処理の獲得や制御に関わる神経回路機構について分子レベルでの解明が期待できる。また動物個体の自由行動を阻害しないワイヤレス方式の神経活動計測技術の開発に成功したことにより、社会行動中の個体からの神経活動計測が容易となったことにより、社会集団の中で観察される複雑な行動パターンやコミュニケーションに関する神経機構の解明が進むと期待できる。
トランスジェニックソングバードを使った解析を進めるとともに、これにより明らかとなった細胞内シグナル経路についてイメージングによる計測を進めていく。また聴覚系神経回路のtonotopyと相関のある機能分子群について、ウイルスベクターを用いた強制発現、機能阻害実験を行い、これらの分子の聴覚系回路の機能的成熟への関与を明らかにしていく。鳥類の音声制御系と相同な回路構築をもつ哺乳類の大脳-基底核回路に注目して、イメージングと組み合わせるマウスの行動実験の条件検討を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
Scientific Reports
巻: 5 ページ: 7853
10.1038/srep07853
Frontiers in neural circuits
巻: 8 ページ: 110
10.3389/fncir.2014.00110