研究課題/領域番号 |
24221001
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研究種目 |
基盤研究(S)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
河村 公隆 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (70201449)
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研究分担者 |
関 宰 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (30374648)
宮崎 雄三 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60376655)
内田 昌男 独立行政法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 主任研究員 (50344289)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 環境動態解析 / 環境変動 / 大気エアロゾル / 有機物トレーサー / 同位体測定 |
研究概要 |
中国の急速な経済発展の結果、大気汚染の影響は東アジア全域や北太平洋にまで及んでおり、雲の形成や気候への影響が出てきている可能性が指摘される。平成24年度には、人間活動の影響を強く受ける東アジアとその風下域である西部北太平洋の大気エアロゾルに着目し、サンプリングしたエアロゾル試料中の化学組成を有機分子・安定炭素同位体・無機イオンレベルで明らかにした。特に、これまで研究が遅れていた有機エアロゾルに焦点をあて、その生成・起源・変質を解明するために、有機物の組成解析を集中的に行った。また、エアロゾル粒子が持つ吸湿特性に着目し、タンデムDMA装置を用いて父島エアロゾルの吸湿成長特性を測定し、水溶性有機物が微粒子の吸湿成長に寄与していること、しかし、カルシウム濃度が高い春の時期にはシュウ酸カルシウムの生成により、吸湿成長率が低下することを明らかにした。また、低分子ジカルボン酸の解析に加えて、糖類、イソプレン・モノテルペンの酸化生成物トレーサーなどを測定し、バイオマス燃焼、花粉・菌類、生物起源二次有機エアロゾルの情報を入手した。 平成24年度(25年度への繰り越し分を含む)における本研究成果は、国内外の学会で26件、国際学術誌に21報発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
済州島・父島でのエアロゾル組成の長期変動から、西部北太平洋エアロゾルの長期の組成変動解析を開始した。また、大気循環の変動が組成の変化に及ぼす影響を流跡線解析から評価した。中国から日本へのPM2.5の飛来を解明するために、中国で採取したエアロゾル試料の化学分析を開始した。また、北アルプス立山室堂で冬期に降った積雪試料を用いて中国からの汚染物質の日本への輸送を解明した。申請者らが開発してきたGC, GC/MS法を駆使して、多種類の有機化合物を大気エアロゾル試料中に測定した。以下に成果の一部を解説する。 立山・室堂平にて深度6mのピットから採取した雪試料を分析した。その結果、降雪中に、高い濃度のギ酸、酢酸、プロピオン酸を検出した。酢酸(平均35 ng g-1)またはギ酸(28 ng g-1)が優位なモノカルボン酸であり、プロピオン酸(2.8 ng g-1)が続いた。高い濃度の有機酸は黄砂を含む試料中で検出された。安息香酸は、硝酸塩、硫酸塩、Na,Ca,Mgと良い相関を示し、汚染およびダスト起源であることが示唆された。検出されたモノカルボン酸は、雪中の溶存有機物の 1-6% に相当することが示された。 中国河北平原に位置する泰山の山頂にて、含浸フィルターを用いてガス状および粒子状カルボニルを捕集し、ガスクロマトグラフにて測定した。高い濃度のグリコールアルデヒド、ヒドロキシアセトン、グルオギザール、メチルグルオギザール、ノナナール、デカナールを検出したが、大部分はガス状で存在した。これらは、低分子ジカルボン酸の重要な前駆体である。また、これらカルボニルはバイオマス燃焼のトレーサーであるレボグルコサンと良い相関を示したことから、華北平原の小麦の収穫後の野焼きで生成していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
大気中には低分子ジカルボン酸が高い濃度で存在するが、今後、これらの測定を、中国、西部北太平洋域(済州島、沖縄、父島)において実施し、アジア・太平洋域における水溶性有機エアロゾルの空間分布、季節変化および過去10数年間の経時変化を明らかにする。また、中央ヒマラヤ(標高1958 m)で採取されたエアロゾル試料を分析し、水溶性有機物の組成解析を行う。更に、中国・チベット高原で採取したエアロゾル試料についても分析をおこなう、。 安定水素同位体比(δD)の測定から植生の起源域の推定(水循環により高緯度の植物ほどδD値は低い)を行う。また、平成25年度に導入した同位体比質量分析計(IRMS)を用いて、エアロゾル炭素・窒素の安定同位体比からエアロゾルの起源情報、有機エロゾルの反応情報を抽出する。父島で採取した海洋エアロゾル試料中のシュウ酸のδ13CをGC/IRMSにより測定し、大気酸化能力・エアロゾルのエイジングの季節変化および過去13年間の経年変化を評価する。硫酸、硝酸、アンモニウムイオンなど無機イオンを、イオンクロマトグラフ(IC)により測定する。 エアロゾル中には未同定の極性有機化合物が数多く存在する。24年度に導入した高分解能質量分析計を用いて水溶性画分にヒドロキシジカルボン酸など新規の極性有機化合物の同定を行う。また、同定した新たな有機物を有機エアロゾルの新たな起源・光化学反応トレーサーとして開発を試みる。国立環境科学研究所に配備した元素分析計を用いて、エアロゾル中の放射性炭素(14C)の測定を効率的におこなう。
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