研究課題/領域番号 |
24221002
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐野 有司 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (50162524)
|
研究分担者 |
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70463908)
高畑 直人 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (90345059)
|
研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
|
キーワード | 環境変動 / 海洋科学 / 地球化学 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
前年度から継続して、サンゴ骨格、有孔虫殻、シャコガイ殻、魚の耳石などの生物起源炭酸塩、ならびに合成標準試料を対象に、NanoSIMSを用いた高解像度分析を行った。また標準試料などを用いて最適な分析法を検討すると共に、測定精度や検出感度を向上させるため、最新のハードウェアおよびソフトウェアを導入して装置の大幅な改良を行った。 化石シャコガイ殻に含まれるSr/Ca比の高解像度分析から得られた知見をまとめ、シャコガイ殻のSr/Ca比が光量の指標となることを支持する結果を得た。この論文は影響力の高い雑誌に受理された。さらにハロゲン元素の定量分析を実施した。化石シャコガイ殻の塩素濃度は、明瞭な年周期および日周期を示しており、その濃集パターンは、ストロンチウム濃度と逆相関することがわかった。この結果から、生物石灰化作用における陰イオンの輸送過程が明らかになる可能性がある。また、鉱床性アパタイトを用いて塩素同位体比の分析を開始した。この測定法を微化石のコノドントに適用し、古海水の塩素同位体比を復元する目的で研究を進めている。 ピストンシリンダーによる標準試料の合成実験では、塩素濃度の測定再現性を10%以下まで抑えることに成功した。フッ素のほうは再現性が悪く、さらに改善が必要である。 この他にも、2011年10月に岩手県の川で捕獲された鮭の耳石の微量元素濃度とストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr比)分析を実施した。この鮭は2011年3月の東北沖地震を経験した試料であり、津波による遠洋の環境変化を記録している可能性がある。現在、鮭の年齢から、地震時期の特定と、微量元素濃度および同位体比プロファイルの解析を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特任研究員2名を継続して採用し、NanoSIMSとEPMAを用いた生物炭酸塩骨格中の微量金属元素およびハロゲン元素の挙動の解明に取り組んでいる。シャコガイと浮遊性有孔虫については、論文化に至っており、進行状況は順調である。ピストンシリンダーを用いた炭酸塩標準試料の合成実験では、塩素については、ほぼ均質な試料を得るに至った。フッ素については、融点の低いフッ化銀を新たに用意しており、均質な試料合成に向けての目途が立っている。化石シャコガイ殻の塩素濃度については、沈殿実験から得られた標準試料をもとに、半定量に成功し、年周期・日周期パターンを得るなど成果が出始めている。いずれの成果も次年度内での学会発表および論文化が可能な段階にある。また、塩素やストロンチウムの同位体比測定にも取りかかった。以上のことから、研究計画はおおむね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
ハロゲン元素濃度や同位体測定についてNanoSIMSの最適な分析条件を検討するとともに、種別、時代別の個体の解析を進めることによって、高解像度の古海洋環境解析を継続する。また標準試料の合成実験を継続し最適な条件を決定する。具体的には標準試料の合成実験では、融点の低いフッ化銀と炭酸カルシウム試薬を用いて、ピストンシリンダーで加圧し、均質な標準試料の作成を試みる。生物起源炭酸塩の分析では、シャコガイについては、飼育された現世試料のハロゲン濃度測定を実施し、生育環境と濃度変化の関係を明らかにする。これまでに確立した測定条件を深海サンゴ骨格に適用し、ストロンチウムおよびハロゲン元素の定量分析を実施する。NanoSIMSを用いた超微小領域塩素同位体比測定法を確立し、それをコノドントに適用し、古海洋における塩素同位体比の変動過程を議論する。鮭の耳石の分析結果をまとめ、前年度に実施したムラサキイガイの結果と併せて、2011年東北沖地震による、沿岸および遠洋域での津波の影響を評価する。成果は随時学会で発表し、論文化を進める。
|