研究課題/領域番号 |
24221004
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山田 英之 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (40142351)
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研究分担者 |
成松 鎮雄 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (20113037)
山本 緑 長崎国際大学, 薬学部, 講師 (00336075)
藤村 成剛 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, その他 (20416564)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | ダイオキシン / 性ステロイド / 黄体形成ホルモン / 成長ホルモン / 性未成熟 / 成長遅滞 / 芳香族炭化水素受容体 |
研究概要 |
ダイオキシン (2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin; TCDD)の妊娠期曝露による児の成長抑制に及ぼす機構に関して、格段の研究進展が実現できた。これまでの我々の研究によって、TCDDの母体曝露は周産期の黄体形成ホルモン (luteinizing hormone; LH)の低下を介して、成長後にまで継続する性未成熟を惹起することを見出していた。これに加え、TCDDは周産期の児の成長ホルモン (growth hormone; GH)を低下させ、これによって身体の成長を抑制することを見い出した。この原因としては、GH産生細胞の増殖に関わる糖質コルチコイドが低下する機構が推定された。また、糖質コルチコイドの低下には、母子の同ホルモン不活性化代謝酵素がTCDDによって誘導されるためと考えられた。 本年度の研究では、周産期の児のLHやGHの抑制に芳香族炭化水素受容体 (AHR) の活性化が関与するか否かについても進展をもたらすことができた。すなわち、TCDDに対して高親和性のAHRを発現するマウス(C55BL/6J系統)と低親和性AHRのマウス(DBA/2J系統)を用いた検討から、LHやGHの抑制にはAHR活性化が関与することが示唆された。 TCDD以外の内分泌撹乱物質に関しては、di(2-ethylhexyl)phthalate (DEHP)およびメチル水銀等の9化合物につき、単回投与法と慢性飲水法によって検討を行った。その結果、妊娠ラットへの投与により胎児精巣のステロイド合成系を抑制する物質が認められた。しかし、TCDDと同様に脳下垂体ホルモンの抑制を介して作用を惹起すると思われる物質は見い出せなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイオキシンによる児の成長遅滞や性未成熟の機構は順調に解析が進んでいる。今年度は性未成熟や子育て破綻に関しては、さらなる機構解析までには至らなかったが、新たな側面からの解析を目指して未経験技法の導入等を行っており、予定通りの推移と考えている。TCDD以外の物質についての解析はほぼ順調である。
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今後の研究の推進方策 |
TCDDによる性未成熟のインプリンティングはgonadotropin-releasing hormone (GnRH)神経の発達抑制に起因すると考えられる(H24年度成果)。これの実証に向け、神経組織学的解析を予定している。この実験に要する機器は平成25年度に導入済であり、これまでの分子レベルの研究に加えて組織学的な解析にも研究を拡大して一層の展開を目指す。性未成熟に関与するLHの一過性障害がエネルギー生産の必須因子であるリポ酸によって完全に回復することから、LH抑制にはTCDDによるエネルギー生産の抑制が関与することを予想している。しかし、両者をつなぐ機構はまだ明らかになっておらず、これの解析を目指す。育児母 prolactinや新生児成長ホルモン (GH) の低下にもエネルギー生産障害が介在する可能性がある。 H25年度の解析で、周産期児のLHやGHの抑制にAHRが関与することを推定できた。今年度は、これをより明確にするため、AHR欠損ラット(作出済)を用いた検討を行う。また、性未成熟の原因であるGnRH神経の成熟抑制へのAHRの関与も解析する。これらの検討を介して、TCDDの性未成熟や成長遅滞作用の機構の核心に迫れるものと期待している。 CdとPbは低濃度水溶液の慢性的飲用によって胎児精巣のステロイド合成系を障害する(H24, 25年度成果)。現実の曝露形態に照らし、この処理方法での障害性を見出したことは意義が大きい。そこで、今年度以降はその機構解析に移行する。平成25年度より分担研究者を増やして解析実施中であり、一層の進展が期待される。また、未解析の内分泌撹乱物質についても胎児・脳下垂体-性腺系の障害性に関するスクリーニングを続行する。
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