研究課題
昨年度までの研究により、1)2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD ; 最強毒性ダイオキシン)の妊娠期曝露が、胎児の黄体形成ホルモン低下に基づいて出生後にgonadotropin-releasing hormone (GnRH)レベルを低下させ交尾行動不全を惹起すること、2)TCDDは育児期母体のprolactin低下によって育児破綻ひいては出生児の発育を障害すること、ならびに3)他の内分泌撹乱物質であるフタル酸エステルやCdCl_2等も生殖腺や脳下垂体のホルモン水準を抑制しうることを見出している。本年度は、これらの詳細機構と対処法の提示に向け研究を実施し、以下の成果を挙げた。1. 栄養成分であるα-リポ酸が、エネルギー産生系ならびに葉酸代謝系の恒常性を維持することで、TCDD依存的な児の性未成熟に対して拮抗する可能性があることを見出した。この事実は、α-リポ酸が次世代の健全性を守る方策として有用であることを提示する重要知見と思われる。2. 児のGnRH低下が、発達期の性ステロイドやセロトニンの代謝撹乱に基づくGnRH神経の成熟抑制に基づいて起こるとの新たな可能性を見出した。3. 育児母のprolactin低下には、prolactin産生細胞数の減少が寄与することを明らかにした。さらに、TCDDは次世代以降の児にもprolactin低下や育児減退ならびにこれに基づく発育障害を継承しうることも発見した。これらは、環境汚染物質が次世代のみならず孫世代以降にも障害を残す可能性を示唆しており、近年のヒト社会における育児問題との関連から興味深い知見である。4. ダイオキシン以外の内分泌撹乱物質につき、現実的曝露に即した処理法である妊娠期飲水曝露に切り替えて、母子の脳下垂体-生殖腺ホルモンへの影響を調べた。その結果、胎児脳下垂体ホルモンがメチル水銀やカドミウム、ビスフェノールA等によって変動することを見出し、これらが発育への影響に繋がる可能性が浮上した。
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