研究課題/領域番号 |
24221006
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
長嶋 泰之 東京理科大学, 理学部, 教授 (60198322)
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研究分担者 |
満汐 孝治 東京理科大学, 理学部, 助教 (10710840)
立花 隆行 立教大学, 理学部, 助教 (90449306)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 量子ビーム / 陽電子 / ポジトロニウム / ポジトロニウム負イオン / 光脱離 / 共鳴 |
研究実績の概要 |
26年度に引き続き、(1)陽電子溜め込み装置から引き出されるパルス状低速陽電子ビームを利用したエネルギー可変ポジトロニウムビームの開発、(2)ポジトロニウム負イオン光脱離における共鳴の観測、(3)金属表面からのポジトロニウムやポジトロニウム負イオンの放出に対するアルカリ金属蒸着の効果の研究、(4)ポジトロニウム負イオンの観測による金属中陽電子の拡散の研究、(5)陽電子消滅誘起イオン脱離の研究を行った。 (1)では、ポジトロニウムビーム発生装置を完成させた。24年度に開発したポジトロニウムビームと比べて、径が細く強度が高い。これを用いて、固体表面におけるポジトロニウム回折実験をスタートした。(2)では、26年度から行っていたポジトロニウム負イオン光脱離における共鳴現象の研究を引き続き行った。その結果、光の波長を変化させると、特定の波長でポジトロニウム負イオンの光脱離が起こる確率が高くなること、つまり、共鳴が起こっていることがわかった。形状共鳴が起こる波長は、宮崎大の五十嵐らによる理論計算値(New J. Phys. 2 (2000) 17)と一致した。これらの結果を論文として発表した(Michishio et al., Nat. Commun. 7 (2016) 11060)。(3)では、タングステン表面にリチウム、ナトリウム、カリウム、あるいはセシウムを蒸着し、蒸着量を変えながら、ポジトロニウムやポジトロニウム負イオンの生成量の変化や、放出されたポジトロニウムの飛行時間を測定した。(5)では、ポジトロニウム負イオンの観測によるタングステン中の陽電子拡散定数の測定を行った。(6)では、二酸化チタン表面からの酸素正イオンの脱離の効率を、陽電子入射の場合と電子入射の場合とで比較した。その結果、電子入射の場合に比べて陽電子入射の場合の方が、効率が数桁も高いという驚くべき結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、(1)陽電子溜め込み装置を利用したエネルギー可変ポジトロニウムビーム発生装置の完成、(2)絶縁体表面におけるポジトロニウムの回折実験、(3)ポジトロニウム負イオン生成条件の最適化、(4)ポジトロニウム負イオンの観測による金属中における陽電子拡散の研究、(5)陽電子消滅誘起イオン脱離の研究、を予定していた。 研究業績の概要に書いたように、全ての計画がほぼ予定通り進んだ。エネルギー可変ポジトロニウム発生装置の開発では、当初予定していたよりも高品質なポジトロニウムビームを得ることに成功した。これを用いて、絶縁体表面におけるポジトロニウムの回折実験をスタートしている。 ポジトロニウム負イオン生成条件の最適化は、タングステン単結晶表面からのポジトロニウムやポジトロニウム負イオン放出に対するアルカリ金属蒸着の効果を調べることで行った。また、ポジトロニウム負イオンの観測による陽電子拡散の研究では、単結晶表面にナトリウムを蒸着し、陽電子の入射エネルギーを変えながらポジトロニウム負イオンの放出量を測定することで行った。さらに陽電子消滅誘起イオン脱離の研究では、電子入射の場合との違いについても検討し、陽電子入射の場合の方が、効率が数桁も高いという驚くべき結果を得た。 27年度には、26年度に行ったポジトロニウム負イオンの共鳴の観測のデータ解析も詳細に行い、形状共鳴の存在を明らかにした。また共鳴エネルギーを理論計算と比較して論文発表した。この結果はエネルギー可変ポジトロニウムビーム生成の研究内容とともに、28年5月に松江で開催される低速陽電子の国際会議で、27年度の研究分担者である満汐孝治が招待講演で発表することになっている。
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今後の研究の推進方策 |
28年度には、固体表面におけるポジトロニウムビームを用いたポジトロニウムの回折・干渉の実験を中心に推進していく予定である。 ポジトロニウムを固体表面すれすれの角度で入射すると、バルク中には進入せずに固体最表面で反射されると考えられる。その干渉像を得れば、固体最表面の構造解析が可能である。特にポジトロニウムは電気的に中性であるため、電荷をもつ電子や陽電子と比べて、絶縁体や磁性体表面の結晶構造解析用プローブとして優れている。同時にこの実験は、これまでに行われていないポジトロニウムの量子干渉を初めて観測する研究と位置づけられ、量子力学的意義が大きい。 試料にはまずはLiFを用いる。LiFはポジトロニウムに引き続き、Al2O3その他の物質でも順次を行う。 以上のほかに、27年度に引き続き、ポジトロニウム負イオン生成条件の最適化やポジトロニウム・ポジトロニウム負イオン生成に対するアルカリ金属蒸着の効果の解明、および陽電子消滅誘起イオン脱離の研究も推進していく予定である。
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