研究課題/領域番号 |
24221008
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山田 啓文 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40283626)
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研究分担者 |
小林 圭 京都大学, 学内共同利用施設等, 特定准教授 (40335211)
平田 芳樹 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員(Researcher) (10357858)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ計測 / 原子間力顕微鏡 |
研究概要 |
本研究課題では、液中高分解能FM-AFMイメージング技術およびデュアルプローブAFM技術を基盤として、生体膜上のさまざまな機能性分子の機能情報と構造情報を分子スケールで識別、可視化する、新たな分子機能イメージング法を確立し、これら生体分子の細胞生理機能における微視的役割を解明することを目的としている。 (1) 生化学修飾探針の作製およびその動作検証: 有機シラン系SAMで修飾したSiO2基板に対し、抗原(ヒト血清アルブミン)が化学結合により吸着することを蛍光顕微鏡により確認した後、同様にSAM修飾したSi探針に抗原を結合させた。この抗原修飾探針を用いてIgG抗体分子試料のフォースカーブを測定したところ、修飾していないSi探針を用いた場合とは大きく異なる結果が得られ、生体分子間相互作用と物理相互作用が明確に識別できることが確認された。 (2) 生体分子周囲の水和構造可視化: 複雑な柔構造を有する生体分子試料における水和構造計測を実現するため、探針駆動制御の精度および周波数帯域を改善し、複雑な形状試料においても高精度で探針が追従できるようにした。その結果、タンパク質等の生体分子系においても安定に水和構造計測ができることが確認された。 (3) モデル生体膜の作製: 生体膜を構成する分子系は膜内を2次元拡散することが可能であり、この流動性は生機能と密接に関連している。この関連性を解明するため、リン脂質分子DMPCをモデル生体膜として選んだ。DMPCは室温ではリップル相、約14℃以下でゲル相、約24℃以上で流動相となり、測定環境温度により流動性を制御することが可能である。マイカ基板上へDMPC二重膜を作製し、温度制御下で水和構造評価を行ったところ、ゲル相および流動層において3次元的な水和構造が形成されていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、おおむね順調に進展している。本年度の3つのサブテーマは密接に関連付けて研究が進められ、生体分子間相互作用計測に向けて、具体的な生体試料を用いて実験が行われている。サブ研究テーマ「(1) 生化学修飾探針の作製およびその動作検証」においては、マウス由来のIgG抗体試料とその抗原であるヒト血清アルブミンを結合させた生化学修飾探針を用いて、これらの分子間の相互作用計測が進められ、実際にその特異的相互作用の計測に成功した。一方、サブ研究テーマ「(2) 生体分子周囲の水和構造可視化」においては、上記研究概要にも述べたように、本研究によって、膜タンパク質、DNAなど、さまざまな生体試料において安定な2次元水和構造計測ができることが確認され、さらには、より柔構造だと思われる抗体分子系においては、その大きな構造揺らぎのために水和構造が生じないという新たな知見も得ることができた。サブ研究テーマ「(3) モデル生体膜の作製」においては、上記研究概要にも述べたように、マイカ基板上への脂質分子二重膜の作製技術を確立し、流動性が制御できることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
生化学修飾探針による抗原-抗体間の相互作用計測においては、その強い特異的結合により、測定される周波数シフト量は著しく増加する。今後、より大きな相互作用力測定にも対応できるよう2次元周波数シフトマッピング法のしきい値の設定を改善する。また、現在は有機シラン系SAMに対して抗原を直接に結合させているため、リンカーなどを用いて抗原の姿勢がより柔軟に変化できるようにすることで、測定再現性の向上を図って行く予定である。 局所水和構造計測については、本研究によってさまざまな生体試料系においても安定な高分解能計測が可能となり、新たな知見が得られつつある。一方で、3次元の水和構造可視化については、基本的に計測可能であるものの、安定な測定は依然容易ではない。計測時間の短縮、機械系および測定系におけるさまざまなドリフト要因を改善することで、安定な生体分子3次元フォースマッピング法の確立を目指す。 モデル生体膜の作製については、性質の異なる複数種の脂質分子を用いて二重膜の作製を試み、3次元フォースマッピングにより脂質分子種ごとの水和構造の違いを計測する。また、脂質二重膜内にタンパク質を導入する方法を具体的に検討する。
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