研究課題/領域番号 |
24221009
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研究種目 |
基盤研究(S)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桑原 裕司 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00283721)
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研究分担者 |
小松 直樹 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (30253008)
赤井 恵 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50437373)
片山 光浩 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70185817)
小川 琢治 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80169185)
森川 良忠 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80358184)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | キラル分子 / 円偏光発光 |
研究概要 |
1.単一分子および分子ナノシステムのキラリティに由来する発光特性を解析するため、極低温超高真空STM、微弱発光検出装置、データ解析部から成る円偏光フォトンSTMシステムを構築した。現有する極低温超高真空STMに微弱偏光発光分析システムを組み込んだ。レンズ系に、直交する偏光成分の間に位相差を生じさせる複屈折素子を導入し、極弱発光検出とSTMの同時測定のためのコントロールシステムを整備した。これにより、STMのトポグラフ像とフォトン強度を同期するフォトンマッピング、また、意図した位置での発光スペクトルが取得可能となった。 2.R体、S体を区別したペリレン誘導体であるキラルPTCDI分子を新規に合成し、円偏光フォトンSTMによりその光学非対称性を評価した。分子発光効率向上のため、NiAl(110)基板上に、AlO3酸化膜を数層(約1nm)形成したのち、キラルPTCDIを蒸着した。少数分子によるアセンブリ構造から左右円偏光発光を区別して検出することから、R体、S体の区別が可能となり、仮定の実証に成功した。また、表面上に形成された分子アセンブリからは、溶液中で得られた円二色性とは大きく異なる光学非対称性が検出された。これは、分子配向、あるいは表面が、本来の単一分子の光学活性に大きな摂動を与えていることを強く示唆している。 3.探針誘起ラマン分光法(TERS)に円偏光による励起システムを組み込んだCD-TERSを設計・構築し、予備実験を開始した。これにより単一キラル分子、あるいは少数分子アセンブリからの振動解析を左右円偏光を区別しながら検出することが可能となる。予備実験では、固体表面上に担持した単層カーボンナノチューブからのラマン振動スペクトルの取得を試み、従来法の結果とよい一致を示し、また、探針誘起によるラマン増強現象までを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.円偏光フォトンSTMシステムの構築・立ち上げに関しては、順調に進行してきた。現有する極低温超高真空STMへの微弱偏光発光分析システム組み込みでは、特にレンズ系に直交する偏光成分の間に位相差を生じさせる複屈折素子を導入した点が特徴で、達成度2.に示すように、円偏光発光計測・分析に早い段階で到達した。これにより、本来の目的であるSTMのトポグラフ像とフォトン強度を同期してマッピングするフォトンマッピング機能と、意図した位置での発光スペクトル取得機能が整備された。 2.一年目は、すでに合成に着手していたキラルPTCDI分子の合成・精製に成功し、R体、S体とも円偏光実験を遂行するに十分な量を得たうえで、円偏光フォトンSTMによりその光学非対称性を評価した。基板試料としては、過去に研究例のあるNiAl(110)基板上を選択し、AlO3酸化膜を数層形成することで、励起分子から基板へのエネルギー失活の低減に成功した。少数分子によるアセンブリ構造から、R体、S体に特有な円偏光発光を検出することができ、申請者らの予測が正しかったことを実証した。表面上に形成された分子アセンブリからは、溶液中で得られた円二色性とは大きく異なる光学非対称性が検出されたため、引き続き本現象の解明に着手した。 3.探針誘起ラマン分光法(TERS)に円偏光による励起システムを組み込んだCD-TERSを設計・構築した。当初予定では、ファイバー型のプローブ使用を想定していたが、フォトンSTMとの整合性や、同時計測の可能性を鑑みて、金属探針型のプローブに変更した。これにより、STMをベースにした複合解析がより簡便となる。初年度は、単層カーボンナノチューブからのラマン振動スペクトルを取得し、過去の研究と良い整合性が得られており、また探針誘起によるラマン増強では単一分子あたり数千倍程度のシグナル増強を得た。
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今後の研究の推進方策 |
円偏光フォトンSTMについては、初年度、順調に立ち上げが完了し、キラル分子系からの円偏光発光の検出・分離が順調に進んでいるが、得られたデータの安定性や再現性を究極的に上げるため、2年度からは、低ノイズ測定に特化したコントローラを新規導入する。一方で、測定対象として、初年度、キラルPTCDI分子の光学非対称性の計測に成功しているが、今後、多様なキラル分子系の評価・計測を展開するため、新規なキラル分子の合成・取得を試みる。合成グループではカーボンナノチューブの右巻き・左巻きを選択抽出するための分子設計およびその合成に着手しており、合成完了後、円偏光計測に供する。また、現存分子では、単一分子の光学非対称が非常に小さいというデメリット改善のため、光学非対称性の大きな分子として、ヘリセン誘導体を準備する。これは当初の計画通り、ヘリセン分子系の合成が可能な研究者を連携研究者として招聘し、計測分子系の最適化を早急に行う。 CD-TERSシステムの構築の完了に伴い、表面吸着分子系におけるTERS実験を開始する。予備実験では、金属探針の不安定性が再現性の良いデータ取得を妨げており、今後は、金属材料選定も含めた試料作製方法を工夫して安定性・再現性向上を図る。また、STMスキャンとラマン散乱検出を同期させることによるラマンマッピング、左右円偏光分離のためのレンズ系の整備などを順次試験する。 理論解析では、初年度キラル分子系の電子状態解析のため、第一原理計算をベースにした解析プログラムの構築をした。2年目以降、まず、単一分子あるいは少数分子アセンブリの局所電子状態計算を可能にしたのち、光学非対称の元となる電子状態の特定や、発光スペクトルを理論的に評価・解析するプログラム構築を進める。
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