研究課題/領域番号 |
24221010
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
河田 恵昭 関西大学, 社会安全学部, 教授 (10027295)
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研究分担者 |
岡 二三生 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (10111923)
片田 敏孝 群馬大学, 大学院工学研究科, 教授 (20233744)
福和 伸夫 名古屋大学, 減災連携研究センター, 教授 (20238520)
田村 圭子 新潟大学, 危機管理本部, 教授 (20397524)
鈴木 進吾 京都大学, 防災研究所, 助教 (30443568)
今村 文彦 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (40213243)
目黒 公郎 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (40222343)
牧 紀男 京都大学, 防災研究所, 准教授 (40283642)
浦川 豪 兵庫県立大学, 総合教育機構, 准教授 (70379056)
中林 一樹 明治大学, 政治経済学研究科, 教授 (80094275)
永松 伸吾 関西大学, 社会安全学部, 准教授 (90335331)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 国難 / 南海トラフ巨大地震 / 首都直下地震 / 最悪の被災シナリオ / 減災対策 / 減災レジリエンス / ハリケーン・サンディ |
研究概要 |
首都直下地震に関するアンケート調査結果を解析した。15の被災シナリオのそれぞれに関して、文章中の名詞の数を数え、その多い順番から頻度分布図を求めた。その結果、5つの典型的なパターンが存在することが明らかになった。この被災シナリオのうち、14は定性的な被害であり、定量的な被害は1つあるので、これに対して、アンケート調査結果との関係を近似的に見出すことにした。まず、第一次近似として見出された関係が一般的に適用できると仮定し、新聞記事の名詞数の変化との関係を使って、相対的な被害額を算定することに成功した。その結果は、定性的被害額は首都直下地震に際して約15兆円となった。この値は、定量化できる被害額と同じレベルであって、妥当であることを示唆するものといえる。また、最悪の被災シナリオに関して、具体的な数値で問題の深刻さが表現できることも明らかになった。たとえば、わが国全体でペットボトルの水は11日分しかなく、首都直下地震が起これば、全国的に飲み水が不足する事態となり、たとえ4日目にフル生産しても全く足らないことがわかった。 一方、ハリケーン・サンディの調査結果から、減災レジリエンスの考え方の具体例を理解できるとともに、米国の被災地の住宅再建では、バイ・アウトの政策によって自己責任の原則が貫かれていることが明らかになった。この手法は、わが国の国難と呼ばれる災害が起こった場合、適用することによって、国家財政が破たんすることを回避できる可能性を示唆するものといえる。そして、タイムラインの方法は、首都圏をいろいろな大規模災害から被害を少なくすることに貢献できることがわかり、国土交通省は平成26年度にタスクフォースを立ち上げ、災害対応力を大きくすることを企図している。とくに、首都圏の地下鉄網の致命的な被災をどのように回避するかという点に関して本研究成果は有用な情報提供ができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最悪の被災シナリオによる被害を、ネット集合知などを用いれば定量化できることが判明した。すなわち、これまでの災害被害の概念を大きく変えることが可能となったのである。なぜなら、多くの人が被害だと考えていた内容が定量化できないがゆえに無視せざるを得なかったことに対し、本研究で開発した方法が適用できる可能性があることが強く示唆されたのである。実際には、定性的にしか評価できない最悪の被災シナリオに対して、ネット集合知を用いて具体的な被害のイメージを名詞の数の変化で評価すれば、定量化できることをさらに確認すればよいのである。そのために、定性的な被害しかわからなかった重要な被災シナリオ、たとえばインターネットが長期間麻痺するような被害に対しても、定量化できることがわかったことは、これからの減災対策を考究する上で、極めて価値の高い研究成果だと言える。この手法は、これまで評価ができなかった途上国の災害による経済被害額の算定にも適用できる可能性があることが示唆されており、世界標準手法として採用される可能性があるほか、応用範囲は広いと言える。 一方、ハリケーン・サンディ災害の調査結果は、わが国の今後の国難対策にとって極めて多くの手法の適用可能性を示したと考えられる。とくに、米国で実施できることが、なぜわが国で適用できないのかという視点で、タイムラインの導入の阻害要因を検討することは、現状のわが国の減災対策のどこに問題があるかを具体的に示す情報といえよう。幸い、本研究に関して、内閣官房、内閣府、国土交通省や気象庁の関係者らとの共同研究が始まっており、そこから得られる成果はこれからのわが国の国難対策に極めて有効であることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、まず、南海トラフ巨大地震の最悪の被災シナリオに関するインターネットを活用したアンケート調査を実施する。この場合、被害が定量化できる被災シナリオについてもアンケート調査を実施し、使用された名詞数の変化と被害との関係をさらに詳しく検討可能ないくつかの関係式の導出を試みる。これによって、名詞数の頻度分布の5つのパターンに関して、定量化できる関係が得られることが期待できる。用いる被災シナリオに関しては、研究分担者から研究成果に基づき、2つずつ提供していただき、これに関して「あなたにとって具体的な被害とはどのような内容ですか」という問いに答えていただく形で、多くの情報を収集できると考えている。とくに、定量化が可能な被災シナリオについては、そこから得られる変換式がどのような表現になるかは、多様な被害内容のグルーピングの可能性を表す可能性もあり、慎重に解析したいと考えている。 一方、ハリケーン・サンディ災害に関しては、再度9月(予定)にワシントンとニューヨークを訪れて災害調査し、とくに各省庁が提出するAAR(After Action Report)を入手して解析し、災害対応のどの点に問題があったのかを見出して、わが国への導入に対して改良を加えたいと考えている。この場合、国土交通省や内閣府などの職員も同行することが予定されており、日本政府がこれから具体化する国難対策の内容に反映されることが期待されている。 以上のような観点から、当初考えていた研究展開に比べて、はるかに多くの有用な研究環境が生まれ出ているので、得られる研究成果は今後のわが国の減災対策の構築に非常に多くの貢献ができるものと期待される。
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