研究課題/領域番号 |
24224006
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研究種目 |
基盤研究(S)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
青木 正治 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80290849)
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研究分担者 |
金正 倫計 独立行政法人日本原子力研究開発機構, J-PARCセンター, セクションリーダー (10354747)
牧村 俊助 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 技師 (10391715)
三原 智 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (80292837)
三宅 康博 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (80209882)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 荷電レプトンフレーバ非保存 / ミューオン |
研究概要 |
SiC回転標的の詳細な設計と製造を行なった。グラファイト標的と比較した場合、SiCセラミックは約10倍の曲げ強度と、40倍のヤング率を持つ。そのため、許容される材料内部の温度差はグラファイト標的の時よりも厳しくなる。熱伝導解析と熱構造解析を行い、グラファイト回転標的のベースデザインに対して、SiCの温度勾配を小さくする様な設計変更を行った。SiC回転標的加熱試験機を製造して回転標的部の耐久性テストを行った。グラファイト回転標的を用いて、放射化した標的のメインテナンス手順を実施し確認したところ、標的部の切断機構に改善が必要である事が判明したので、当該箇所を改良した上で実機の製造を行った。また、SiC回転標的の安全性や寿命向上を目的として、モノリシックSiCよりも強靭な新型SiC/SiCコンポジット材料の開発を行うために室蘭工業大学グループとの研究協力を開始した。 スペクトロメータ開発では、micro-cell MWPCのプロトタイプを製造し、そのビームテストをJ-PARC MLF D2ラインで行なった。予想されるプロンプトバーストの30倍の強度のビーム環境下でも、安定して動作する事を確認した。また、プロンプトから遅れたタイミングで発生する陽電子を観測できる事も確認した。 スペクトロメータ電磁石としてTRIUMFが所有するPACMAN電磁石を活用する可能性を検討した。電磁石下流のMWPCを大型にする必要があるが、基本デザインとほぼ同じ性能が出る事を計算機シミュレーションで確認した。 J-PARC RCSからのパルス陽子ビームの品質に関して、RCS取出し部に設置したビームロスモニターの長期モニター試験を実施した。その結果、実験に要求される陽子ビーム純度(2E-18)がほぼ達成されている事を確認した。測定感度を向上させるために、ビームロスモニターの改良を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SiC回転標的開発では、SiC回転標的先端部と加熱試験機を製造して加熱試験を行った。さらに、グラファイト回転標的アセンブリを用いた試験でアセンブリ設計に改良が必要である事を見いだし、当該箇所を改良した上で実際にビームラインに導入出来るSiC回転標的ロッドを完成する事が出来た。黒鉛回転標的用に製作したビームラインを摸擬している真空容器に設置し、問題なく導入可能であることを確認した。高度に放射化するSiC回転標的を遠隔操作機器にて取り扱う事が可能であることを確認した。これらはビームラインへ実機導入可能である事を示し、意義は大きい。 高価なスペクトロメータ電磁石を海外の連携研究者から借用できる見通しがたったことは大変大きな意義を持つ。 また、トラッカープロトタイプを用いたプロンプトバーストへの耐久性試験を実際のパルスビームで行なう事に成功し、実際の動作条件よりも厳しい環境でもまったく問題がない事を見いだした。これは、スペクトロメータ実機製造への大きな進展である。 パルス陽子ビームの純度測定では、これまでにない感度でJ-PARC RCSからのパルス陽子ビームの純度を測定する事に成功した。これによって、本実験方法の弱点と指摘されていたアフタープロトンバックグランドに関して、問題ないレベルである事を証明できたばかりでなく、本実験のときのモニター方法に関する手法を確立する事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
SiC回転標的の実機をビームラインへ実装するにあたっては、MLF施設への影響等に関する十分なアセスメントが求められている。今後は、SiC回転標的の実装の早期実現を目指して、実験施設側との技術検討を進めてゆく。また、標的先端部の材料に関して、さらに安全性の高いSiC/SiCコンポジット材料の開発を推進し、適切な時点で置き換える事を目指す。 SiC回転標的実装にともなう実験施設への影響アセスメントが物理測定スケジュールに与える影響を切り離すため、まずグラファイト標的で物理測定を開始する事とする。適切な段階でSiC標的に置き換える方針とする。 スペクトロメータ開発では、スペクトロメータ電磁石としてTRIUMFから借用する電磁石を使用する事を基本として、計算機シミュレーションによる物理感度やバックグランドなどの再評価を行う。また、トラッカーの開発では、アノード電圧のスイッチングを行なうなどしてプロンプト耐性の更なる高度化をはかる。そのために、アノードワイヤー長が実機と同じプロトタイプ(2号)を製造し、ビームテストを実施する。読み出し回路前段(アナログ部)と後段(デジタル変換部)の設計を推し進め、チャンネル当たりの単価削減をはかる。このようにして、平成26年度中にスペクトロメータシステムの完成を目指す。 パルス陽子ビーム開発では、陽子ビームとバックグランド陽電子を弁別できる機能を持った検出器の開発を行い、パルス純度の測定感度を更に向上させる。 また、ミューオン電子転換過程の測定に先立って、原子軌道上でミューオンが崩壊することによって発生する電子の運動量スペクトルを測定する予備実験を行なう事を検討する。この情報は、ミューオン電子転換過程の探索実験において重要なキャリブレーション情報となる。
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