研究課題/領域番号 |
24224009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永長 直人 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60164406)
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研究分担者 |
十倉 好紀 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30143382)
佐藤 卓 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70354214)
岡 隆史 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50421847)
BAHRAMY MOHAMMAD 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10587463)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | スピン構造 / 中性子散乱 / 量子輸送 |
研究実績の概要 |
スキルミオン系に関しては、(i)熱搖動を加えてスキルミオンのブラウン運動を調べ、電子線照射による温度勾配の下で、マグノン流によるスキルミオンのミクロ結晶がラチェット的な回転運動を起こすことを見出し、ローレンツ電子顕微鏡による観測結果を説明した。(ii)双極子相互作用系では、カイラル磁性体にはないヘリシティーという自由度があるために、より多彩なスキルミオン構造が可能である。正負のヘリシティーのスキルミオン間には引力が働く結果スキルミオン数2の複合構造であるスキルミオン分子―バイスキルミオンーを発見した。(iii)スキルミオンとマグノンの散乱過程をLLG方程式の大規模数値計算によるシミュレーションによって解明し、粒子としてのスキルミオンの運動量保存則がスキュー散乱角を決めていることをつきとめた。トポロジカル絶縁体では、通常の半導体との接合において界面ディラック粒子が存在することをコンダクタンスのスペクトロスコピーで明らかにした。磁場を印可することでランダウレベルが形成されることも確かめ、清浄な界面系でのディラック粒子という応用へとつながる新しい系を創出した。巨大ラシュバ物質BiTeIでは、ディラック型のバンド交差にともなう磁気抵抗振動を調べた。2つのクラスの周期が見出され、それぞれ小さいフェルミ面と大きなフェルミ面に起因すること、振動の原因は散乱時間の磁場依存性から来ること、を詳細な第一原理電子状態計算との比較を通じて明らかにし、確かにπのベリー位相が存在することを発見した。パイロクロア構造の反強磁性体においてもディラック電子の存在が予測されていたが、この系の伝導特性を詳細に調べた。その結果、磁場下でアニーリングした場合と、そうでない場合を比較すると後者の場合に余分な電導度が現れることを見出し、これが反強磁性磁壁に付随する2次元伝導チャンネルによるものであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スキルミオン研究は世界的なフィーバーとなって競争が激化しているが、その実空間観測に世界で初めて成功した当研究グループの優位性は現在も変わらず、絶縁体スキルミオンの発見、種々の複合スキルミオン構造の観測、電流・光・熱によるそのダイナミクスの制御、など多くの成果が挙がった。特に絶縁体スキルミオンは同時にマルチフェロイクス物質であることも明らかとなり、最初に設定した3つのテーマの間に、深いつながりがあることが見えてきた。さらに、スキルミオンを用いたエレクトロニクス「スキルミオニクス」を提唱し、その理論設計学をLLG方程式のシミュレーションを中心として精力的に構築しつつある。このシミュレーションコードでは、試料の境界や電流効果、熱揺らぎ、など多くの要素を取り入れることが可能であり、メモリ動作における速度、エネルギーコストなどを評価することが可能となっており、応用への展開の基礎となる。
運動量空間の創発電磁場によるトポロジカル物質の研究も順調に進展している。トポロジカル絶縁体に関しては、その磁性をゲート電圧で制御できるところまで来ており、その量子化異常ホール効果の実現寸前のところまで到達している。また、清浄な超構造・界面の作製に成功しており、制御された2次元ディラック電子系のスペクトロスコピーが可能になったことは、今後の展開への堅固な基礎となろう。巨大バルクラシュバ効果を示すBiTeIに関しては、角度分解光電子分光による電子状態の解明から進んで、その量子輸送現象へと研究が進んでいる。特に、ディラックフェルミオンに伴うベリー位相があらわに現れる磁気抵抗振動の研究が進展し、πの位相シフトを見出した。やはりディラックフェルミオンが現れるパイロクロア磁性体においてもトポロジーに基づく磁性と輸送現象の協奏現象を開拓することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、応用をにらんでスキルミオンの制限された空間におけるそのダイナミクスの研究を行うとともに、他のスピンテクスチャー(バブル、磁壁、モノポール構造など)にも研究範囲を広げ、その物性への影響を調べる。(1)理論的には、LLG方程式を制限された空間において数値的に解くことで、特にエッジがダイナミクスの与える影響を調べる。また、磁場、熱、光、などによってスキルミオンを生成・消滅させる機構を明らかにし、より複雑な複合構造(たとえばスキルミオン分子など)形成の可能性を探る。また、時間、空間に依存する電流の下で表れるスキルミオンの質量と慣性効果をLLG方程式により調べて、そのダイナミクスの全貌を明らかにする。これらの知見をもとに、スキルミオンを用いたメモリーや論理回路の設計学の基礎を確立する。(2)実験ではLorentz電子顕微鏡による実空間観察法により、微小回路中で駆動されたスキルミオンのダイナミクスを観測する。また、マイクロ波からTHz波の電磁波を用いてスキルミオンの高速ダイナミクスを調べ、それを基に、逆ファラデー効果やスピン波の強励起を用いたスキルミオン生成・消滅を試みる。理論との協力により、スキルミオンメモリー中における基本的な情報操作の実現に挑む。 (3)中性子を用いた研究では、これまでに引き続き電場印加・電流印加等によって生じるスキルミオン運動の逆空間における観測を行う。特に、金属系スキルミオン MnSi 等に対する電流印可効果を低エネルギー非弾性散乱や小角散乱を用いて検出し、電流下でのスキルミオン格子のダイナミクスを調べる。 (4)ドーピング制御法が確立しつつある磁性トポロジカル絶縁体において量子化異常ホール効果の実現を目指す。局在効果に起因するスケーリング則を実験的に検証し、さらに磁壁構造の検出を目指す。
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