研究課題
5d遷移金属であるイリジウム(Ir4+)の酸化物では極めて強いスピン軌道相互作用が伝導や磁性の担い手の5d電子の状態を大きく変え、量子位相を内包するJeff=1/2状態が実現する。これに伴う新しい物性・機能の開拓を目指して研究を進めた。キタエフ型スピン液体の実現を目指して物質開発を進め、新物質β-Li2IrO3を発見した。β-Li2IrO3ではIr4+が、直交する3つのIr-O2-Ir面からなる120°結合で結ばれ、ハニカム格子の三次元版であるハイパーハニカム格子を形成する。磁化率の振る舞いからハニカムα-A2IrO3とは異なりβ-Li2IrO3ではキタエフ模型に期待される強磁性相互作用が支配的とわかった。低磁場中では約40 Kでノンコリニア型の弱い磁気秩序を示すのみで、Kitaev型スピン液体に極めて近い状態が実現していると考える。新奇トポロジカル相実現を目指し、(111)配向のペロブスカイト型(Ca,Sr)IrO3/SrTiO3超格子薄膜を作製した。ペロブスカイト酸化物を[111]結晶軸方向へ2層ずつ積層させた超格子構造は「人工的なハニカム格子」とみなすことができ、トポロジカル絶縁体の実現が理論的に予言されている。しかし、(111)表面は極性を持つため、(1,1,1)超格子の作製は技術的に困難であり、酸化物では数えるほどしか例がない。製膜条件の最適化により、原子層レベルで制御された(111)超格子膜の実現に成功した。2層、4層、6層超格子では磁気秩序を伴う金属絶縁体転移が観測され、電子相関によりモット絶縁体へのトポロジカル転移が起きた可能性がある。アンチペロブスカイトA3PbO(A=Ca,Sr,Ba)は理論的に3次元ディラック電子系であるとされている。アンチペロブスカイト単結晶を作製することに成功し、3次元ディラック電子による異常な磁気抵抗の振る舞いを観測した。
1: 当初の計画以上に進展している
スピン軌道相互作用と電子相関の物理を体現する新物質系を発見、発信することができた。特にキタエフ物理としての舞台としてのハイパーハニカムβ-Li2IrO3、疑似ハニカムとなる(111)超格子を発信したことは、本研究課題の大きなブレークスルーである。さらに。それに加えてアンチペロブスカイトや励起子絶縁体などで。当初想定していなかった新しい展開を生み出すことができた。これらの成果により、今年度も10件近い国際会議から招待講演の依頼を受けた。また2015年春日本物理学会において、これらの発見に関係するシンポジウムが二件開催された。以上を基に上記を結論した。
新たに発見した系の微視的状態を明らかにする実験に注力すると同時に、さらに面白い物性を示す新物質開拓の努力を継続する。ハイパーハニカムについては、圧力下で相転移を生じ、強磁性的なモーメントが消失しているように見える。キタエフ状態の可能性も念頭に置きつつNMRなど微視的なプローブを使って、圧力誘起相の基底状態を調べる。(1,1,1)の超格子膜についてはトポロジカルモット転移の可能性を追求したい。アンチペロブスカイトについて、量子極限の輸送現象を詳細に調べる。2015年度より研究代表者の研究室に圧力NMRの専門家がスタッフとして加わるので、NMR測定はすぐに開始できる状態にある。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (19件) (うち査読あり 19件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (29件) (うち招待講演 15件)
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