研究課題/領域番号 |
24224010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高木 英典 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40187935)
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研究分担者 |
有馬 孝尚 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (90232066)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 相関電子 / スピン軌道相互作用 / 5d遷移金属酸化物 / 酸化物超格子 / 量子スピン液体 |
研究実績の概要 |
5d遷移金属であるイリジウム(Ir4+)の酸化物では極めて強いスピン軌道相互作用が伝導や磁性の担い手の5d電子の状態を大きく変え、量子位相を内包するJeff=1/2状態が実現する。これに伴う新しい物性・機能の開拓を目指して研究を進めた。 Majorana粒子のエキゾチックな励起状態が期待されるKitaev型のスピン液体の実現について、昨年度発見した3次元ハイパーハニカム格子β-Li2IrO3を舞台として大きな進展があった。3次元ハイパーハニカム格子では、2次元ハニカム格子と同様のKitaev型のスピン液体状態が理論的に予言されている。すでにXMCD測定により圧力下で磁場誘起の強磁性モーメントが消失する兆候を見出していたが、NMRの線幅やT1の温度依存性測定から圧力下で静的スピン凍結の無いことが示され、不均一だが強く揺らいだスピン液体状態が実現していることが明らかになった。見出したスピン液体状態の微視的起源は明らかではないが、2次元ハニカム系でもより明瞭なスピン液体挙動が見えつつあり、舞台設定の共通点より、Kitaev液体が実現していると考えるのが自然と思われる。 薄膜超格子では、CaIrO3の輸送現象の基板依存性を詳細に調べ、質量の極めて軽いDirac電子と重い正孔のバランスの圧力変化として実験結果が理解できることを示した。La置換により電子ドーピングを行い、重い正孔の存在による2キャリア共存状態から、キャリアがDirac電子のみの状態への変化が2%程度の置換で起きることを、Hall係数のLa濃度依存性として観測した。S=1/2高温超伝導銅酸化物のアナロジーとして、Jeff=1/2の系へのドーピングが注目されているが、薄膜のレベルでそれが可能であることを示した。 アンチペロブスカイト酸化物については、量子振動の角度依存性を観測し、理論的に予想されるDiracバンドのフェルミ面を再現する結果を得た。更にその温度依存性からDirac電子の存在と整合する自由電子質量の2%以下の軽い有効質量を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Kitaevスピン液体の実現に向けて、予想外の進展があった。Kitaevスピン液体の実現を目指した動きは世界的な潮流となり、各地で国際学会などが頻繁に開催されてきた。(本研究課題が流れの形成に果たした役割は大きいと自負する。)最近、その流れは停滞しつつあるようにも見える。舞台となるモデル物質はすべて長距離磁気秩序を示し、量子スピン液体の実現を諦める雰囲気が少なからず出てきたからである。量子スピン液体実現の目標から離れ、多くの研究は磁気秩序の起源を探り、高エネルギーの励起にKitaev型相互作用の僅かな兆候を見出すことを目指しているように見える。今回のスピン液体の発見はこのような停滞状態を一変しうるものである。大きなインパクトを反映し、平成27年度年度も10件以上の国際会議から招待を受けた。平成28年9月のHighly Frustrated Magnetismの国際会議では基調講演として発信することが決まっている。また、薄膜の展開はトポロジカル物質の強相関系への拡張として、トポロジカル物質のコミュニティから評価を受け、トポロジカル物質の国際会議から招待を受けることも増えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である。昨年度にKitaev型スピン液体の実現の端緒をつかむという極めて大きな研究の進展があった。年度前半の追加の装置の導入も含めて、期間内の実現と検証を目指して、最終年度でも速度を緩めることなく、むしろ加速注力したい。 1.Kitaev型スピン液体の実現について、本研究で発見した3次元ハイパーハニカム型のイリジウム酸化物が2GPa程度の高圧下で(不均一な)スピン液体挙動を示すことをNMR測定によって見出した。さらに高圧ではより均一なスピン液体挙動を期待しており、3次元系に特徴的な相転移の検出を含めた液体相の評価をNMRをプローブとして強力に推進する。 2.新規2次元ハニカム型イリジウム酸化物において、常圧下で極めてクリーンなスピン液体と思われる挙動を見出した。NMR測定によって、スピン液体状態を確立すると同時に、Kitaevスピン液体の特徴の抽出を理論研究者と連携ながら進める。重水素化ハニカムイリジウム酸化物でも同じようなスピン液体状態が実現することを確認したうえで、中性子非弾性散乱の実験にも挑みたい。 3.他の4d5d元素を含むハニカム型新物質において、奇妙な非磁性基底状態が見いだされつつある。これらの基底状態の本質を明らかにするとともに、周辺の新物質の開拓を進める。 4.3次元ペロブスカイト超格子薄膜構造を用いて、Diracノードの存在を検証する。次元制御、ドーピング制御の手法確立を受けて、スピン軌道Jeff=1/2モット絶縁体へのキャリアドーピングを実現し、輸送現象や角度分解光電子分光を駆使して、S=1/2 モット絶縁体との共通点、違いを明らかにする。
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