研究課題/領域番号 |
24225001
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝治 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (80154540)
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研究分担者 |
佐藤 守俊 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (00323501)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | バイオケミカルセンサー / 生物発光 / イメージングプローブ / ルシフェリン / ルシフェラーゼ |
研究実績の概要 |
セレンテラジン(CTZ)を発光基質、ウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)を発光酵素とするRluc発光系は、発光に補因子を必要としない汎用的なレポータータンパク質として利用されている。これまでCTZの誘導体化に基づく優れた光学特性を持つ生物発光系の開発研究が数多く報告されているが、Rluc発光系における酵素認識メカニズムの詳細は未解明であるために困難なものとされていた。そのため、まずCTZの2位、5位、6位、8位の炭素からのCTZ誘導体の高輝度化及び長波長化の可能性を多種の誘導体合成から詳細に調べたところ、以外にも電子共役系の繋がりがあまりないとされたCTZ6位炭素からの共役系拡張が発光特性向上に寄与することを見いだした。このため、CTZ6位炭素改変体6種の新規誘導体合成を行い、Rlucおよびその変異体を用いて生物発光の評価を行った。この結果、Rlucの変異体(Rluc8.6)が高輝度な生物発光を与え、従来市販されている青色生物発光システムの約25倍の輝度を示し、世界で最も高輝度な青色生物発光システムの開発に成功した(鈴木・佐藤らChem.Commun. 2015に掲載)。 また、開発した青色の生物発光システムに近赤外蛍光タンパク質(iRFP)を融合して生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)に基づく近赤外生物発光システムを作製し、その生体組織透過性等を評価したところ、透過性についての良好な結果を得た。さらに、このアプローチを発展させることを目的として、クロロフィルdを有する特殊なシアノバクテリア(Acaryochloris marina)の光受容ドメインを探索し、ビリベルジンを補因子とする世界で最も小さな近赤外蛍光タンパク質(AM1_1557g2,145アミノ酸)を発見した(上述のiRFPは316アミノ酸)(佐藤らSci. Rep. 2015に掲載;共同開発)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鈴木グループは、最初2年間は長い合成工程数(長いものでは、30工程以上)および酸素に不安定な基質合成に悩まされたが、今年度は天然物合成が専門の西山繁名誉教授の指導のもとで研究室学生も含めて10名体制で合成を進め、これまでに新規合成基質(CTZ誘導体、D-ルシフェリン誘導体)計40種類以上の合成に成功し、安定化保存や発光測定条件などの詳細な基礎検討を済ませてきた。一方、佐藤グループは改変Rlucおよび改変ホタルルシフェラーゼFlucを多数作製し、合成基質との光学特性を詳細に調べてきていた。 そのうち、CTZ・Rluc発光系において、CTZの6位を誘導体化した基質をRluc8.6が効率良く認識し、高輝度な生物発光を与えることを明らかにした。従来市販されているDeepBlueC青色生物発光基質の約25倍の輝度を示し、世界で最も高輝度な青色生物発光システムの開発に成功(Chem.Commun. 2015)。今後はDeepBlueCに代わって世界中で使われる可能性が高い。 また、クロロフィルdを有する特殊なシアノバクテリア(Acaryochloris marina)の光受容ドメインを探索し、ビリベルジンを補因子とする世界で最も小さな近赤外蛍光タンパク質(AM1_1557g2,145アミノ酸)を発見(上述のiRFPは316アミノ酸)(Sci. Rep. 2015)した。BRET系に応用可能なものである。この蛍光タンパク質は、哺乳類に豊富なビリベルジンを補因子とするため、生体(in vivo)でのイメージングに極めて有用なツールを提供する。この蛍光タンパク質は光吸収に引き続いて構造変化を起こすので、光遺伝学(オプトジェネティクス)を革新する分子ツールとなる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で高輝度の青色生物発光システムがCTZ・Rluc発光系で実現したことを基に、類似のアプローチによる人工酵素Alucと適合する合成基質での高輝度化を図る。 なお、CTZ6位改変体が既存の酵素Rluc8.6に認識を受ける事が分かったが、酵素認識に重要となる部位の解明には未だ至っていない。そこでこれまで酵素認識に関与しないとされてきた部位における置換基導入効果も調べる事で網羅的な構造活性相関研究を行う。なお、当初CTZの2位炭素から伸びた水酸基が酵素外に出ていると考えられたが、最近ではCTZ分子反対側の6位炭素側が酵素外に出ていると考えられるので、この証拠となるX線解析と分子軌道シミュレーションを実施中する。 人工生物発光酵素Alucにおいては、CTZ誘導体との構造活性相関を行うとともに、生物発光評価において重要なファクターとなる物理定数(代謝速度・生物発光量子収率・ミカエリスメンテン定数)の算出も行う。特にCTZ6位に近赤外蛍光色素を修飾することで、Rluc並びにAluc発光系において生物発光の近赤外化を実現する。また、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)機構は、生物発光基質の発光スペクトルと有機蛍光色素の吸収スペクトルの重なりが必要であるために蛍光色素の選択幅が狭い。このため、共鳴エネルギー移動にスペクトル重なりが必要でないThrough-bond energy transfer(TBET)機構を用いた新たなCTZ誘導体の設計も行う。
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