研究課題/領域番号 |
24225003
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
西出 宏之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90120930)
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研究分担者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子合成 / 有機ラジカル / 機能性高分子 / 蓄電 / 光電変換 / 電荷輸送 / 有機エレクトロニクス / 電子交換 |
研究概要 |
本研究は、当初計画に基づき、有機安定ラジカル種の可逆的かつ速い電子授受に着目し世界に先駆け合成してきたラジカルポリマーによる高速電荷輸送と高密度電荷貯蔵の発見とその解釈を起点とした、π共役物性に支配される従来の導電性ポリマーから脱却した電子交換反応に基く導電・蓄電物質の基礎科学確立を目指して推進した。計画書記載の研究方針である ①大流束電荷輸送系の創出と ②ヘテロ接合を用いた流束制御 を基軸とした現象の普遍化による学問的深化と、③有機ラジカル種の拡充による超高速化やpnバイポーラ性など新規物性も活用した ④SOMO (Singly Occupied MO)π共役複合系へと一般化する道筋での有機物性化学の新領域開拓を着実に推進した。新型太陽電池や次世代蓄電池など実デバイスに波及する、実践的学術として確立しつつある。本年度の成果を以下に記す。 1. 電子交換に基づく導電現象の物理化学 (1) 非共役系での導電現象の確立と深化:薄層化(界面積増大)により膜厚を精密制御する方法を、高い交換反応性を有するラジカル種とも組合せ、電荷・イオン伝播の大流束輸送系を構築した。(2) 大流束輸送系の解析:大流束輸送の非平衡熱力学を解明するため、電荷輸送の素過程を様々な解析法により定量的に捉えた。 2. ラジカルポリマーの合成有機化学 (1) ラジカルポリマーを与える反応有機化学の確立:これまでに確立した重合法を駆使して、分子量、分散度に加え不対電子密度を制御したポリマーを精密合成した。(2) ラジカル不対電子の合成化学による特性制御:従来明らかにして来た安定ラジカル種に加え、pnバイポーラ性を有するフェルダジルやニトロニルニトロキシド、不均一電子移動速度定数が極めて大きいアダマンタン骨格などに拡張し、レドックス電位、電解質膨潤度、対イオンや溶媒の物質移動量と速度の実測より電荷輸送特性を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、以下の事由により当初計画以上に進展し、有機ラジカル関与の斬新な光・電子機能性ポリマーとして確立されつつあり、今後の展開に着実な見通しを得ている。 (1) 本研究が目的とする、レドックスによる大流速輸送系の解析に関して、電荷拡散のダイナミクスと静的不均一構造の共存した複雑系として解析・最適化することで大流速輸送系の物理化学が明らかになりつつあり、過渡的な濃度揺らぎが電荷輸送性に与える影響についても解析可能となっている。またラジカル由来の常磁性は、充放電にともない可逆的な消滅・生成が可能であることを正確に描像しており、今後、強磁場下の中性子散乱・反射実験に初めて適用するための高分子系として、斬新な基礎物性を明らかにしている。 (2) ラジカルポリマーの合成有機化学に関しては、安定ラジカル種に水素結合ドナー部位を導入した分子にも拡張でき、非共有電子対との分子内水素結合形成に関する一般性ある知見を集積している。共役系の拡張や複素環導入も含めSOMOを拡張し、ESRによるスピン密度分布の定量と、電子移動速度定数、エネルギー準位および酸化還元電位の制御に繋がっている。電気化学計測(Nicholson法、Tafelプロット)による交換電流密度, ACインピーダンス測定(Nyquistプロット)による不均一系電子移動速度定数の定量から、既に知見あるニトロキシドやフェノキシルの電子移動速度と比較しながら、電子移動に関わる諸定数を求め、レドックス分子としてのこれらの位置付けを明確に整理することができた。未開拓のラジカル種である非ケクレ位で連結したオリゴラジカルの合成にも新たに着手し、電荷輸送媒体としての斬新な可能性を明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
第3年度は、ラジカルポリマーの合成有機化学の更なる追究を、SOMO-π共役複合系の開拓と機能構築、により計る。π共役系との複合により、集電効果や界面制御のみならず、電気化学反応場としてのレドックス媒体と電導体としてのπ共役系の相互作用に踏み込む知見を得る。また、エネルギー変換の学理に基づく実践的学術の追求として、SOMOが関与する光電気化学に焦点を当てた研究展開を、安定ラジカル種のSOMOが関与する光励起緩和、項間交差、光励起エネルギー・電子移動の全容解明により計る。特に、上記のSOMO-π共役複合系に於いて、SOMOが共役分子軌道に関与する光電荷分離状態が、化学結合の生成・切断をともなわない一電子反応系であることに着目し、電荷分離状態が電荷補償イオンにより安定化するとの着想を実証する。さらに、SOMOの存在密度を高めることで電子のホッピングによる電荷分離を促進し、逆電子移動の抑制から長寿命の電荷分離状態の実現へと繋げる。これらを分光学から定量的に把握するための手段を確立しており、生成する化学種の同定とともに光電荷分離反応の素過程の解析に踏み込み、効率高い光電変換系へと繋げる計画である。 以上の方策は、これまで確立してきた電位印加時、非平衡下で誘起される荷電サイトおよび電荷補償イオンの分布や、過渡的な濃度勾配の時間変化の観測から独自の物質系で展開し、自己電子交換、イオンの物質移動、高分子鎖の緩和過程などとして抽出することによって、普遍性ある基礎知見として提案できると考えている。
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