研究課題
本研究では、エピジェネティックスな遺伝子発現の制御に関する分子科学的な総合研究を進めている。特に、DNA配列特異的な結合分子にエピジェネティックスな遺伝子発現の活性化機能を付与することによって、細胞の初期化・分化の制御を行なうことと、遺伝子制御に関連する酵素や反応を直接可視化し解析する方法の開発を行なうことを主な研究目的としている。2015年度の主な研究成果を以下に示す。(1)SAHA Py-Imポリアミド(81種)とCTB Py-Imポリアミド(32種)のライブラリーを構築した。構築したライブラリーの遺伝子発現のヒト皮膚線維芽細胞(HDF)に対する活性化能を、マイクロアレイ、RT-PCRにより評価した。(2)特定遺伝子を特異的に抑制する機能性Py-Imポリアミドの開発に成功し、共同研究の成果としてそれらの結果を論文として報告した。ポリアミドのDNA塩基配列特異性を反映した特定遺伝子OFFスイッチとしての可能性を示した。(3)高速原子間力顕微鏡(AFM)によって、DNAの微細な高次構造の変化やDNAと結合、解離するタンパク質の動態をリアルタイムで観察可能にする測定技術開発を続けた。特に、脂質二重層上でDNAフレームを構築、測定する新手法の開発に成功し、論文として報告した。未だ、論文として報告できていないものの、ヌクレオソーム-DNA複合体の構築とAFM観察には成功した。まとめると、申請者の研究室独自の合成、評価、解析技術を駆使し、特異的な遺伝子発現の制御技術の開発と、その機構の解析に向けて研究が進展したと考える。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画より共同研究を進めていた特定遺伝子を特異的に抑制する機能性Py-Imポリアミドの評価と解析が終わり、その研究成果をまとめ論文として報告した。これによって、機能性Py-Imポリアミドの遺伝子発現に対する活性化と抑制、両方の制御を可能とする研究コンセプトを実証することができた。また、AFMによるDNAナノ構造体の構築と動態解析研究も進展しており、論文として報告した。加えて、ヌクレオソーム-DNA複合体の構築にも成功し、それらの静的なAFM測定解析が進んだ。ようやくヌクレオソームの動態解析研究を進められる段階にきたと考える。
遺伝子発現の制御機構の解明は、生命科学に対する理解の根幹を成しており重要な研究課題である。特に、細胞内の遺伝子発現をエピジェネティックに機能分子により制御する方法論の開発を進める。具体的には、ヒストン修飾酵素やシトシンのメチル化酵素の働きを特異的に制御する新規機能分子の開発に取り組んでいく。高速原子間力顕微鏡(AFM)を活用し、様々なDNA ナノ構造体の構築、リアルタイムでのDNAの高次構造変化、各種DNA結合性タンパク質との結合と解離等を直接可視化する技術は進展している。今後、この解析測定技術をヌクレオソーム-DNA複合体の動態解析に応用可能にすることが重要である。申請者らは、有機合成、機能評価、構造解析、AFM測定、各々の技術を確立しつつ、それらを複合した分子科学的アプローチによって遺伝子発現の制御機構の解明研究を進めていくことが重要であると考えている。将来的にエピジェネティックス制御機能分子によって、細胞の初期化や分化を誘導することを目指したい。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 4件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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