研究課題/領域番号 |
24225006
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
グン 剣萍 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 教授 (20250417)
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研究分担者 |
黒川 孝幸 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 准教授 (40451439)
中島 祐 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 助教 (80574350)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | ゲル / 犠牲結合 / 高靭性 / 高強度 / 生体材料 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず水素結合を犠牲結合とする強靭ゲルを創製した。カルボキシル基とアミド基の強い水素結合を利用し、ポリメタクリル酸(PMAA)ゲルを第1成分、ポリアクリルアミドを第2成分としたダブルネットワーク(DN)ゲルを創製したところ、両成分間の水素結合の効果により強靭なゲルが得られた。さらに、本ゲルの第1成分をポリメタクリル酸ブチル(PBMA)-PMAA-PBMAトリブロックコポリマーに変更し、本DNゲルに疎水性相互作用をも導入することで、破断応力10MPa、引裂エネルギー2850 J/m2などの極めて優れた力学物性を実現した。またウラニル基を有する水素結合ゲルの創製にも成功している。ウラニル基を有するモノマーを架橋剤なしで重合したところ、高分子鎖間に水素結合が形成されて弱いゲルが得られた。本結合を強化するためにウラニル基およびカルボキシル基を有するモ ノマーを様々な比率で重合させたところ、ある混合比において引裂エネルギー20,000 J/m2に達する極めて強靭なゲルが得られた。 さらに、ラメラ超構造を有するゲルについて、ラメラ層の構造制御を行った。これまではシート状のラメラ層含有ゲルのみが合成されていたが、ゲル合成時のシェア印加法やゲル-ラメラ層間相互作用を戦略的に利用することにより、円筒状ラメラ層を有するチューブ状ゲル、玉葱状ラメラ層を有する板状ゲルなどの作り分けに成功した。これらのゲルは、そのラメラ構造に由来する特異な膨潤挙動を示した。例えば円筒状ラメラ層を有するゲルは、膨潤すると体積・直径は増加するが長さは減少するという異方的膨潤を示し、玉葱状ラメラ層を有するゲルは、良溶媒中でも全く膨潤しないという結果を得た。これは3次元網目であるゲル層と2次元流体であるラメラ層の変形エネルギーの兼ね合いによるものと考えられ、現在理論構築を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、水素結合を犠牲結合とするゲル、またゲル内のラメラ超構造の制御を実現した。さらに、創製された各種ゲルは、我々の想定を超える高い力学物性、機能性を示した。例えば、水素結合系において得られた引裂エネルギー20,000 J/m2は、これまでに報告されてきた水系ゲルの引裂エネルギーを凌駕するものである。水素結合は、イオン結合と違って塩環境で比較的安定であるので、本ゲルは生体内などの塩存在下で利用可能な極めて強靭な含水材料となることが期待される。またラメラ層の構造を制御したゲルは、極めて多彩な膨潤挙動を示した。特にチューブ状ゲルが見せる異方的膨潤挙動は、アクトミオシン系の変形挙動に類似していることから、人工筋肉の基盤材料としての利用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、イオン結合、疎水性相互作用、水素結合などの多様な相互作用を犠牲結合とした強靭ゲルの開発に成功し、強靭化の基盤技術は確立したと言える。2016年度は、医・歯学系研究者との多彩な共同研究により、これまで創製されてきた各種強靭ゲルの医療応用の検討を行う。これらのゲルは、内部の犠牲結合様式の違いにより、弾性、衝撃吸収性、自己修復性など様々な特性を有しており、医学者の様々な要望に応じたゲルを提供することが可能である。さらに、こうしたゲルの生体適合性を向上させるため、天然高分子を用いた犠牲結合を有する強靭ゲルの作製も目指す。例えば、カチオン性のキトサンとアニオン性のヒアルロン酸にポリイオンコンプレックスを形成させ、強靭なイオン結合性ゲルを創製することなどを検討している。 また、これまでにゲル内部に構築された様々なラメラ超構造を活かした医療・工業応用を検討する。例えば、刺激応答性構造色変化を活かした各種センシング、ラメラ層の物質拡散阻害効果を活かした徐放性薬物担体などの利用が可能である。
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