研究課題
L21規則構造を有するHeusler合金系材料の高品位薄膜作製および物性評価CoFeMnSi薄膜において、CoFeを下地層とする強磁性トンネル接合(MTJ)を作製し、MgO下地層のMTJと熱処理温度依存性を調べた。この結果、熱処理温度500℃の下地において、表面粗さが改善し、MTJのTMRが室温で213%、10Kで396%を得た。またコンダクタンスの印加電圧依存性から、CoFeMnSiの正方晶歪みおよびミスフィット転位の有無が温度依存性に影響を与えていることがわかった。L10規則構造を有する高磁気異方性材料の高品位薄膜作製と物性の評価MnAl薄膜でこれまでの焼結合金ターゲットの代わりに溶融合金ターゲットを用いることにより、平坦で高磁気異方性の薄膜を占める合金を得た。XRDの測定結果から、(001)配向し、かつ、L10規則構造を有していることが分かった。また、磁化容易軸が膜面直方向であり、約10 Merg/ccという高い垂直磁気異方性を有する垂直磁化膜を得ることに成功した。さらに、面内磁化膜試料ではあるが、ダンピング定数の評価を行なった結果、0.006という高磁気異方性材料の中では非常に小さいダンピング定数を得ることに成功した。一方FePdのL10合金においてはFePd/CoFeBの構造とすることにより、ダンピング定数が0.007、磁気異方性定数が10 Merg/ccという値を得た。新規の物性を有する規則合金薄膜の作製マルチフェロイック特性を有するBiFeO3(BFO)薄膜の高品位化をめざした。また、BFO/FeCo積層膜を作製した。MFMで測定可能なデバイス構造とし、電圧を印加することによる磁性の制御を試みた結果、±20Vの電圧で磁化が反転することを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
・L10規則合金およびL21規則合金のいずれにおいても、当初の実験計画では本年度に積層膜の作製条件を詳細に検討することを計画していた。実際には初年度に大きな進展があったので、昨年度から積層膜における界面制御の最適化の実験に着手してきている。この結果、いずれの規則合金においても、ダンピング定数が小さく、磁気異方性が大きなデバイス用薄膜を得ることに成功した。・規則合金がL10のMnAl合金の場合、上部、下部をMnAlとした強磁性トンネル接合を作製することができ、磁気抵抗効果の観測も世界で初めて可能となった。・L21の規則合金材料に関してはバッファ層の違いにより、界面の構造がおおきく変化することを詳細に調べ、これらがTMRの温度依存性の値に大きく影響していることを示した。これらから、室温で大きなTMR特性を得るための大きな指針を得ることができた。・また新規材料に関しても、新規に検討を始めたマルチフェロイック特性を示す材料を高品位に作製することに成功し、強磁性体との二層構造で結合させることにより電圧で磁化反転が可能なデバイスの創製に向けて着実に進展が見られた。・これらの結果のように、L10系材料、L21系材料において、積層構造による材料の特性向上は、当初の計画にない新しい材料系であり、上記の区分では「(1)当初の計画以上に進展している」とした。
本課題は順調に進展しており、おおまかな観点からは変更の必要はない。特にL10系の薄膜に関しては、FePdとMnAlという二つの材料が次世代のスピントロニクスデバイスの候補ということで、昨年度に引き続き本年度も集中してこれらの材料の高品位化、デバイス化を行ってきた。この結果、ダンピング定数と磁気異方性定数が共に向上した薄膜作製に成功している。しかしながら大きな磁気抵抗比という観点が未だ未達である。今年度も引き続きデバイス化に関する検討を更に推し進め、垂直強磁性トンネル接合における大きな磁気抵抗効果の観測、およびスピン注入デバイス作製という当初の方針に沿って研究を行う。一方のL21材料に関しても当初の予定どおりの進展であった。今後はL21材料がポテンシャルとして持つ100%分極した状態を強磁性トンネル磁気抵抗素子の界面に生成することの重要性に関して、理論系の先生とのディスカッションを積極的に行い、大きな分極率を得るための薄膜作製方法、界面への第三元素の挿入、などを引き続き詳細に検討する必要がある。
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