研究課題/領域番号 |
24226001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安藤 康夫 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60250726)
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研究分担者 |
大兼 幹彦 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50396454)
永沼 博 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60434023)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 規則合金 / ホイスラー / 高磁気異方性 / ヘテロ接合 / 生体磁場 / 磁気センサ |
研究実績の概要 |
前年度までに開発したMnAl薄膜はL10規則構造を示す組成および作製温度範囲が非常に狭く,高品質な薄膜を安定に得ることが難しかった.今年度はMnAlに数%のCoをドープすることで,高磁気異方性を維持しつつ安定に高品質の薄膜が得られることを見出した.また,Coドープにより磁気抵抗素子に応用する上で重要な表面平坦性も向上した.さらに,(MnCo)Alを電極としたMTJ素子を作製し,約20%のTMR効果を観測することに成功した. これまでにCo2(Fe0.4Mn0.6)Siホイスラー合金が高いスピン分極率と非常に小さい磁気緩和定数を示すことを明らかにしてきた.今年度はFeMnリッチ組成のホイスラー合金薄膜を作製し,Co原子が(FeMn)サイトを占めるアンチサイト欠陥を減少させることによるハーフメタル特性の改善を目指した.その結果,化学両論組成で作製したMTJ素子に比べて,FeMnリッチ組成で作製した素子は高いTMR比を示すことが分かった。 高い磁気異方性と低磁気緩和を有するDO22-MnGa薄膜上に組成の異なるホイスラー合金薄膜を積層し,界面の磁気的相互作用を詳細に調べた.その結果,Co2MnSiホイスラー合金組成が最も大きな反平行結合を示すことが分かった.この大きな磁気結合により,ハーフメタルCo2MnSiに垂直磁気異方性を付与することができると考えられる. 昨年度に引き続き,SrTiO3単結晶基板上にエピタキシャルFePd薄膜を成長させた.膜厚を変化させることで,10 nm以上で規則度90%以上の高規則度のFePd薄膜が得られた.さらに,FePd薄膜を電極に用いたMTJ素子を作製し,スピントルクダイオード効果を観測し,世界最高の40GHzのミリ波検波に成功した. 極薄かつ高品質のBiフェライト薄膜をSrTiO3基板上に作製することに成功した.また,これを障壁層として用いた素子を作製し,大きなTER効果を観測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は以下の2つのマイルストーンで研究を進めている. (1) 規則合金の高品位化および理想的な物性発現のための薄膜作製条件の確立 (2) 規則合金を含むヘテロ接合を種々作製し,新規な物性の発現,新規のスピンデバイス創成にむけた設計指針の提案 (1)については前年度までに概ね当初の目標を達成し,さらに高いレベルでの材料開発を進めてきた.今年度の大きな成果として,MnAlに微量なCoを添加することで,高磁気異方性・低磁気緩和の薄膜を安定に作製できることが分かった.また,ホイスラー合金についても組成の最適化によってそのハーフメタル性をさらに改善できることが分かった.(2)についても(1)で作製した材料を用いたデバイス開発に取り組み,磁気ヘッドに応用可能なホイスラー合金電極CPP-GMR素子,20nm程度の微小MRAMに適用可能なMTJ素子,ハーフメタル性に加えて低磁気異方性を示すCo2Fe0.4Mn0.6Siを用いた高感度磁場センサ素子など,従来デバイスを圧倒的に凌駕する性能を示す素子を実現するための指針が得られつつある.また,ホイスラー合金を用いたスピン波伝搬素子や,FePdを用いた高周波検波素子,Biフェライトを用いた新しい原理に基づく超高感度磁場センサなどの新しいデバイスの創成可能性も見えてきた. 以上述べたように,研究開発は想定以上に進展している.これは研究代表者が強いリーダーシップで各グループをまとめており,また各グループ間の連携も有機的になされているためと考えられる.また,材料からデバイス開発までを上手くグループ間で分担して,効率よく研究開発が進められている.来年度以降も,当初計画を上回る材料および素子の性能改善が期待される.さらに,当初想定していなかった全く新しいスピントロニクスデバイスの創製も期待できる.これまでの研究体制を維持しつつ,引き続き大きな成果を挙げることができると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
(1) L21-ホイスラー規則合金薄膜, CPP-GMRおよびMTJ素子の作製 H28年度は,ホイスラー合金組成の最適化によってさらにハーフメタル性能を向上させることで,超高TMR比の実現を目指す.また,Si基板上に良質な多結晶ホイスラー合金薄膜を作製し,高感度磁場センサなどへの応用可能性を明らかにする. (2) DO22-およびL10-MnGa規則合金薄膜およびMTJ素子の作製 (3) DO22-MnGa/L21-Heusler積層構造の作製 H27年度までに行った,(2),(3)の成果をもとにして,MnGa/Co2MnSi構造の作製条件最適化を行い,垂直異方性を有し,かつ,高TMR比を示すMTJ素子の実現を目指す. (4) L10-FePd規則合金薄膜およびMTJ素子の作製 FePd膜を用いたMTJ素子を高性能化するためにSrTiO3トンネル絶縁層と組み合わせた新規MTJ素子を作製する.得られるTMR比は未知数であるものの,これまでの研究から欠陥の少ないフルエピタキシャルMTJ素子が実現可能と考えられる.この素子の性能ポテンシャルを明らかにするとともに,高周波発振素子または検波素子の製品応用への道筋を示す. (5) L10-MnAl規則合金薄膜およびMTJ素子の作製 H27年度までに得られた高品位な(MnCo)Al薄膜を電極としたMTJ素子を作製し,高TMR化を目指す.(MnCo)Al/MgO界面に極薄の強磁性層を挿入することで,格子欠陥を減少させつつ,良好な磁気特性を維持する構造を提案する.また,20nmφ以下の微小MRAM素子において必要な,高い熱安定性と低消費電力を兼備するMTJ素子を実現する. 他,Biフェライト障壁と合金ヘテロ接合の作製と評価,垂直CoFeB合金ヘテロ接合の作製と評価,を並行して行う.これらの素子は,これまでにない超高感度の磁場センサや,非常に制度の高い電流センサ等への応用が期待できる.さらに,低磁気緩和を有するホイスラー合金およびフェリ磁性を示すホイスラー合金を用いて,スピン波伝搬素子への応用可能性を明らかにする.
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