研究課題
本研究では、酸化物分極界面に二次元電子を蓄積させ、強誘電体をチャネルとしたトランジスタおよび酸化亜鉛における量子伝導についての研究を行うことを目的としている。(1)強誘電体チャネルトランジスタについては、前年までにBaTiO3単結晶および薄膜をチャネルとした電気二重層トランジスタの動作を実証してきた。そのため、BaTiO3の強誘電分極反転によるチャネル伝導のスイッチングを目指して、SrRuO3/BaTiO3積層構造の作製を進めてきた。また、電界による超伝導発現を目的として、関連物質であるWO3やPbOなどの層状物質を用いて電気二重層トランジスタを作製した。結果として、WO3では電界による伝導特性の変調に成功したが、超伝導の観測には至らなかった。(2)酸化亜鉛二次元電子系の量子伝導では、前年までにν=3/2という偶数分母分数量子ホール効果を半導体で初めて観測した。この研究を進め、ν=3/2の再現性を複数の試料で確認するとともに、その素性を明らかにするため、電界変調や微細加工によるアンチドットの作製を行った。電界変調では通常の絶縁膜の代わりに、真空層を絶縁体として用いるAir-gapトランジスタの作製に成功した。また、アンチドットを作製すると、電子がドットを周回し干渉することに相当する整合性振動が観測された。この振動はν=3/2付近でも観測され、複合粒子の形成を示唆した。この振動周期はν=3/2の状態がスピン偏極していることを示唆しており、高品質GaAs二次元電子系で観測されるν=5/2と同様の複合粒子のペアリングに由来する状態である手がかりを得た。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)強誘電体チャネルトランジスタに関しては、最終的に強誘電体の表面・界面における分極不連続による電荷蓄積・空乏を実証し、強誘電体分極の反転に基づく新たなタイプのトランジスタの作製を目的としている。これまでイオン液体を用いた強誘電体をチャネルとする電気二重層トランジスタの動作に成功し、予定通りの成果を得ている。強誘電体の分極反転による伝導特性の制御は、強誘電体のリークなどにより難航しているが、分子線エピタキシーを用いて高品質BaTiO3と下部電極のSrRuO3が作製できるようになったので、今後計画通りに研究を進めていく。(2)酸化亜鉛二次元電子系においては、薄膜および界面の高品質化を行い、新たな量子相の観測を行うことを目的としている。移動度は当初80万cm2/Vsであったものが、現在では100万cm2/Vsを超え、今でも徐々に増加している。また、偶数分母分数量子ホール効果ν=3/2という状態を初めて観測し、世界的にも非常に注目される結果となっている。量子干渉の安定度を評価する目安である勝利散乱時間が最高品質のGaAs系二次元電子ガスと同程度となっていることも判明し、予想を超える進展と言える。さらに、電子線リソグラフィや真空を絶縁体とするAir-gapトランジスタを開発し、周辺の技術の確立も行ってきた。以上より、当初の予定にはない課題が現れたが、適切に解決でき、全体として、当初の予定以上の成果が出ていると判断している。
(1)強誘電体チャネルトランジスタについては、ベースとなる電界効果の実証と、分極反転のための積層構造の作製を達成したため、今後は分極反転によるチャネルの伝導特性のスイッチングを行う。また、他の物質系において電界効果誘起超伝導の探索を行う。材料系はWO3などの強誘電関連物質やvan-der Waals力により形成される層状物質などを探索する。また、既に超伝導になることがわかっているが、単結晶の作製が難しいものや元素置換による伝導特性が調べられていないものなどを、薄膜技術を用いて研究することも視野に入れる。(2)酸化亜鉛二次元電子系における量子伝導に関しては、さらなる界面の高品質化とともに、ν=3/2の偶数分母分数量子ホール効果の詳細について調べることを行う。最近の二次元電子系の移動度の向上により、ZnO界面の品質を制限している原因はヒーター及び周辺部材からの不純物の混入であることが明らかとなっている。そのため、より脱ガスの少ない部材に装置を改造することを含めて、高品質化を行っていく。また、偶数分母分数量子ホール効果において最も重要な要素は、スピンの偏極率である。理論的には、完全スピン偏極とされているが、アンチドット構造の測定と合わせて、抵抗検出型核磁気共鳴などGaAs系で用いられてきた方法をZnOに応用し、実験的に検証する。
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