研究課題
本年度は,前年度までに開発してきたセンシング技術の更なる高度化(精度・時空間分解能の向上)を行うとともに,ナノ・マイクロレベル熱物性センシング技術の工学的応用を行った。1.高熱伝導性ナノコンポジットの開発:(1)垂直配向カーボンナノチューブにパリレンを気相合成し,熱伝導性の高いコンポジットの作製に成功した。(2)フォトサーマル赤外検知法の高度化を行った。感度解析の結果,加熱用レーザーの最適な周波数範囲を決定した。(3)高熱伝導性ナノコンポジットの熱伝導率測定を行い,提案手法の有効性を明らかにした。(4)パリレン気相合成技術に着目し,新しい熱伝導率センシング手法(パリレン蒸着型非定常細線法)を考案し,その妥当性を実験的に明らかにした。2.光MEMS熱物性センサーの開発:(1)試料の振動状態等の擾乱に追従してセンシングが可能なトラッキングシステムを提案し,高い安定性で試料の粘性率をセンシングすることが可能となった。(2)オートフォーカシング技術をセンサーに実装し,手振れによる焦点ズレの影響を低減することに成功した。本提案手法により,振動場や試料の設置状態に依存しない新しい粘性率センシング手法が実現した。3.ナノ・マイクロ熱物性センシングの工学的応用:(1)数nm径の貫通孔(ナノポア)を有するメンブレンを用い,シーケンサへの応用を目指したDNA通過過程の光学的検出・ダイナミクス計測技術の開発を行った。シリコンメンブレンと紫外光励起をベースとした高時間分解能による通過過程観察に成功し,光学的測定の優位性を示した。(2)集束イオンビームによってナノポアを形成した窒化シリコンメンブレンに金ナノ粒子を充填するプラズモニック・ナノポアの作製技術を確立した。さらに,酸化アルミニウム被膜によってメンブレンの帯電を制御し,DNAの通過速度を低減(S/Nの向上)できることを実証した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画で示した9種類のナノ・マイクロ熱物性センシング技術の高度化は,計画の前倒しでほぼ全ての要素技術について目標を既に達成している。さらに,空間分解能や精度の面で目標値を大幅に上回るセンシング技術もある。また,工学的応用に関しては,光MEMS拡散センサーの開発,プラズモン共鳴を利用したセンシング技術と光検出型ナノポアDNAダイナミクス計測が,当初予定よりも早く進展しており成果が出始めている。一方,当初の計画では9種類のセンシング技術群の高度化と応用を目指していたが,研究・開発過程で他の要素技術と組み合わせた新しい熱伝導率センシング手法(パリレン蒸着型非定常細線法)を考案するに至り,合計10種類のセンシング技術に拡張された。更に,様々な系に応用し,予定以上の成果が既に出ている。工学的応用に関して詳細を下記に示した。1.プラズモン粒子を熱源かつセンサーとした局所加熱・相変化誘起現象の観察:カルコゲナイド相変化薄膜上に金ナノ粒子を配置し,パルス光照射による局所的相変化にともなう,金ナノ粒子のプラズモン共鳴スペクトルの変化を観察した。相変化分布に依存したスペクトル変化を“温度計”として,10 nm程度の分解能でナノ領域の温度分布を計測する技術を提案した。さらに,これらの物理過程を利用した非ノイマン型コンピューティング機能の発現を計算機シミュレーションにより実証した。2.DNAシーケンサへの応用:世界で初めて光検出型ナノポアDNAダイナミクス計測を実現した。金ナノ粒子サンドイッチアッセイによる極微量DNA/抗原検出において,試料作製精度の向上により,当初の想定よりも早く,サブピコモル濃度のDNA検出感度達成が視野に入って来た。また,夾雑物混合試料に対して,二色レーザー同時照射によって夾雑物由来の背景散乱信号を除去する方法を考案し,血清試料への適用が現実的となってきた。
全てのナノ・マイクロ熱物性センシング技術(全10種類)について,前倒し的に研究・開発を進め,当初の高度化目標をほぼ全て達成している。今後はナノ・マイクロ熱物性センシング技術群を更に高度化・深化させ(特に高精度化と高感度化),従来の古典的測定方法では適用が不可能な系において,更なる新しい知見と学術的インパクトの創出を目指す。具体的には下記に示す重点開発項目を中心に,全てのナノ・マイクロ熱物性センシング技術群に対して高度化・深化と工学応用を行う。1.結合輸送現象センシング技術の開発:複数波長の観察用レーザーを用いた結合輸送現象センシング理論の実験的検証を行う。2.周期加熱サーモリフレクタンス法の深化:強磁場環境で安定して熱伝導率センシングが可能な測定システムを構築する。更に超伝導薄膜の面方向熱伝導率測定の妥当性について実験的に明らかにする。3.パリレン蒸着型非定常細線法の高度化:セミクラスレートハイドレートの結晶成長素過程を光学的に直接観察しながら,幅広い温度範囲で熱伝導率を高精度にセンシング可能なシステムを構築する。4.ナノ・マイクロ熱物性センシング技術の工学応用:最終年度までに高度化・深化させた10種類のナノ・マイクロ熱物性センシング技術群をベースにした他に例のない工学的応用と熱物性データの提供を行う。
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