研究課題/領域番号 |
24226006
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長坂 雄次 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40129573)
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研究分担者 |
斎木 敏治 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (70261196)
田口 良広 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (30433741)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 熱物性 / 熱工学 / マイクロ・ナノデバイス / 計測工学 |
研究実績の概要 |
平成27年度は前年度までに開発してきたセンシング技術の更なる深化・高度化を行い,従来の古典的測定方法では適用が不可能な系において,計測パラメータの拡張と工学的応用を実現した。具体的な研究成果を下記に示した。 1. 結合輸送現象センシング技術の開発:ソーレー強制レイリー散乱法を深化させ,従来法では測定が極めて困難であった3成分溶液での結合輸送現象センシング技術を構築した。(1)試料の屈折率-波長依存性を利用し,異なる波長の観察用レーザーを導入することで,複数のパラメータを分離して測定可能なセンシング技術を確立した。(2)炭化水素系のベンチマーク試料等を用いた3成分系溶液の結合輸送現象を観察し,妥当性を実験的に明らかにした。 2. 周期加熱サーモリフレクタンス法の深化: 周期加熱サーモリフレクタンス法の高精度化と高感度化を行い,熱伝導率異方性センシングやデバイス劣化その場モニタリングの実現可能性を示した。(1)高感度信号検出を実現する光学システムを構築するとともに,試料面内方向の熱物性情報を高感度に測定可能な試料形状を決定し,その妥当性を実験的に明らかにした。(2)金バンプ劣化メカニズムの解明を目指し,劣化に伴う界面熱抵抗変化をモニタリング可能な光学システムと劣化加速試験装置の構築を行った。 3. ナノ・マイクロ熱物性センシングを用いた様々な工学的応用:本研究課題の最終年度に予定している実用化に向けた実証実験を前倒しし,様々な工学的応用を試行した。(1)ナノポアDNAシーケンサへの応用を想定した液中物質輸送制御に取り組み,制御メカニズムを明らかにすることに成功した。(2)金ナノ粒子局在表面プラズモン共鳴による相変化誘起の観察を行い,熱的・非熱的相変化を選択的に制御可能な実験条件を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度は研究計画のすべての項目を達成している。更に,これまでに深化・高度化を行ってきた革新的センシング技術を用いて新たな工学的応用を開拓し,下記に示す当初計画していた以上の知見を得るに至った。 (1)セミクラスレートハイドレートの熱伝導率-温度依存性の解明:開発したパリレンコート型非定常細線法を深化させ,適切な計測プロトコルを確立し,ハイドレート生成状況を光学的に観察しながら高精度に熱伝導率を測定することが可能となった。 (2)MEMS熱物性センサーの開発:バイオ分野への適用を目指し,MEMS熱物性センサーを開発した。微細加工プロセスの見直しを行い,問題となっていた歩留りの向上に成功した。 (3)DNAのナノポア通過速度制御の実証:以下の検証を行った。①塩イオン半径が小さいほどDNAへの吸着率が高く,通過速度低減に効果的,②ナノポアを挟むcis側とtrans側で塩濃度勾配を与えることにより,ナノポア通過効率を低下させることなく,通過速度低減が可能,③ナノポアメンブレンとして正に帯電したアルミナを用いることにより,通過速度低減が可能である。また,相変化ナノポアによるナノ粒子通過率制御を実証した。 (4)金ナノ粒子局在表面プラズモンによる相変化過程の解明:特に熱的過程と非熱的過程を切り分けて議論するために,波長の異なるフェムト秒・サブナノ秒パルスによる相変化過程を比較した。バンドギャップに近い波長1064 nmの場合,非熱的過程が支配的であり,より局所的な相変化が可能であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度の前年度までに全てのナノ・マイクロ熱物性センシング技術(全10種類)について当初の高度化目標を達成した。最終年度は,これまでに開発してきた近接場光や熱的ゆらぎに起因した表面波と光MEMS技術を革新的に融合し,ナノ・マイクロレベルのエネルギー・運動量・物質輸送物性(熱伝導率,温度伝導率,粘性係数,拡散係数,ソーレー係数)を包括的にセンシング可能なナノ・マイクロ熱物性センシング技術群を用いて新たな工学的応用を開拓し,「ナノ・マイクロ熱物性センシング工学」を確立する。重点研究項目を下記に示した。 1.細胞凍結保存を実現する高濃度トレハロース水溶液の物質輸送性質解明:従来の測定技術では原理的に適用が不可能な試料の物質輸送性質を明らかにする。 2.ナノ・マイクロ界面評価と新しいデバイス制御技術への応用:劣化加速試験を通した電子デバイスの界面評価や新しい界面制御とパターニング技術への応用を行う。 3.単分子DNAシーケンサの実用化に向けた実証実験:これまでに高度化・深化させた液中物質輸送制御技術とプラズモニック・ナノポア作製技術を融合させる。 4.相変化デバイスやPtナノワイヤデバイス等のナノ電子デバイスへの応用:ナノスケール相変化技術への応用を目指した素過程の解明を目指す。
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