研究課題/領域番号 |
24226014
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研究種目 |
基盤研究(S)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田畑 仁 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00263319)
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研究分担者 |
関 宗俊 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40432439)
松井 裕章 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (80397752)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | ゆらぎ / スピングラス / アトラクター選択 / 磁気トンネル接合 |
研究概要 |
反強磁性体において、磁性イオンを非磁性イオンで置換することにより、スピン間相互作用に「ランダムネス」と「フラストレーション」を導入することが可能である。その結果、局在磁気モーメントが空間的にランダムな方向を向いた状態で凍結するスピングラス、またはクラスターグラスといった状態が発現することがある。我々のグループのこれまでの研究では、スピネル型フェライト(Mg,Fe)[Mg,Fe,Ti]O4 (MFTO)において、室温付近の高温領域でグラス状態が実現し、光照射によってそのグラス状態が融解して磁化が増加する現象(光誘起磁化)が見出されている。この他にも、スピンフラストレーションに由来する磁気抵抗メモリ効果を発現する物質等が報告されており、フラストレーション系は通常の磁性体にはない特異な電気・磁気特性を示すことが知られている。これらの物性を利用すれば、新しいスピントロニクスデバイスの実現が期待できる。フラストレーション系の物性は未解明の部分も多く、物性物理学の分野において、現在盛んに研究が進められているテーマの一つである。このような系の揺らぎ物性を新しい電子デバイスへ応用する研究を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スピネルフェライト酸化物:分子式AFe2O4で表され、A=Mg,TiとしたMFTO薄膜をパルスレーザーデポジション法(PLD法)によってサファイヤc面基板上に堆積させた。ターゲットはFe3O4, MgO, TiO2粉末を化学量論比(Mg1+xFe1.5-xTi0.5O4)で混合し固相焼結法を用い、1200℃で4時間焼結し作製した。薄膜の堆積は基板温度500℃、真空(1×105)の環境下で行った。X線構造解析(XRD)によりサファイアc面基板上に(111)配向したエピタキシャル薄膜が成長したことを確認した。X線光電子分光(XPS)を用いてFe、Tiの3pピークの化学シフトを通して化学結合状態を推定した。 先行研究で報告されたx=0.5の試料は低キャリア密度のため高抵抗(室温で10Ωcm以上)であるが、xの減少に伴い、試料の伝導性は向上し、x=0の試料は室温でマグネタイトと同程度の低抵抗率(0.36Ω・cm)を持つことが確認された(図2)。これはクラスターグラスの磁気特性と電気伝導特性の相関を調べる上で非常に重要であり、デバイス応用の観点からも意義のある結果である。また、XPSの結果からキャリア密度の増加はBサイトのFe2+の増加が原因と示唆された。 電気抵抗の温度依存性について、x=0試料の低温での抵抗はVRH(p=0.75)であることを示す。磁場印加時の結果も同様に解析した結果、pは0.6(3/5)または0.67(2/3)であった。さらに磁場印加時のZFC、FC過程の測定結果から得られるクーロンギャップは異なる値を持つ。この量の磁場依存性と磁化の磁場依存性との対応関係から、電気伝導がクラスターグラス特有の磁化状態を反映することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
輸送現象と温度特性において、220K以下の測定では整流特性が現れた。無磁場下でのTr付近で整流特性が現れるので両者の関係を調べる必要がある。また、200KではI-V特性の磁場依存性を評価した。印加磁場の増加に伴いI(B)/I(0)は減少した。マグネタイトなどの強磁性体を用いた接合の電流比の磁場依存性と反対の挙動を示したがそれがMFTO特有の磁気特性に由来するものかは今回の実験からは判断できなかった。今後スピントロニクスデバイス化に向け、広範囲な電気抵抗の制御、特に低抵抗化の実現を達成することが課題となる。構成元素Feの2価、3価の電子状態制御のための置換元素の選定が鍵となる。
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