研究課題/領域番号 |
24226019
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研究種目 |
基盤研究(S)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
後藤 雅宏 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10211921)
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研究分担者 |
神谷 典穂 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50302766)
若林 里衣 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60595148)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 経皮免疫 / 経皮ワクチン / 花粉症治療 / がん免疫 / 経皮吸収 / ナノコロイド / 界面活性剤 / 抗体産生 |
研究概要 |
低侵襲性の経皮ワクチンの開発を目指して、生体高分子のタンパク質の経皮吸収促進法の開発に成功した。従来から、皮膚の透過には分子量の限界があり、分子量500以上の物質の皮膚透過は、通常困難であると考えられていた。その最大の原因は、皮膚の最外層にある角層の強力なバリア機能にあった。本研究では、角層が疎水的な物質を透過させやすい性質に着目し、タンパク質を疎水性の界面活性剤でナノコーティングする新たなナノ分散法(S/O技術)を提案した。1. 本年度は、まずタンパク質として、OVAをモデルとして用いて、安定なナノ分散法の調製業件を検討した。その結果、酵素やタンパク質の高次構造を維持し、高い活性を保持するためには、糖を親水部に有する長鎖アルキル基を持った疎水性界面活性剤で被覆することが重要であることを明らかにした。2. 上記で調製したタンパク質を油状の基剤であるミリスチン酸イソプロピル(IPM)中に溶解し、200nm程度のほぼ均一なナノ分散化に成功した。3. モデルとして、豚の皮膚を用いた皮膚透過実験を行ったところ、コントロールとして用いた水溶液に比べ、オイルにナノ分散したタンパク質は、10倍以上の高濃度で皮膚透過が起こることを確認できた。4. マウスを用いて、OVAの経皮免疫実験(2回投与)を行い、同濃度のタンパク質を2回注射した場合の免疫生産量を評価したところ、注射の4割程度の抗体価が得られることを明らかにした。また、本オイル状サンプルを調製の際、アジュバンドを添加すると、皮膚への浸透がさらに向上することがわかったので、次年度は、アジュバンドを添加し、さらなる免疫効果の増強をはかる計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である低侵襲性経皮ワクチンの構築には、大きく分けて、以下の3つの大きな課題が存在する。1)タンパク質や核酸などの生体分子を長期に安定に活性を保持したまま油層に可溶化すること。2)皮膚透過の最大のバリアである皮膚の角層を透過する新技術を確立すること。3)皮膚の内部にあるランゲルハンス細胞に到達させ、十分な免疫効果を実現すること。 本年度の計画では、上記1を完成させ、2および3の展開をはかることが目標であった。 本研究で、油状ナノ分散法を確立することができ、それを用いることによって、皮膚の透過が大きく向上することを明らかにすることができた。なかでも、糖鎖型の界面活性剤で被覆することによって、半年にわたってタンパク質の活性が油中で保持されることを確認できた。また、タンパク質ー界面活性剤複合体の粒子径を、200nmに均一に制御できる調製法を確立することができた。よって、本年度の実験計画は、ほぼ順調に進展していると考えられる。また、ここで調製したタンパク質の皮膚透過挙動をフランツセルを用いて検討した結果、通常の水溶液と比べて数十倍に向上することを明らかに出来た。 さらに、上記で調製したタンパク質OVAの油状ナノ分散液をマウスに塗布することによって、抗体の産生量を注射の4割程度まで向上させることに成功した。これによって、ほぼ初年度の目標は達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
既存のキャリアにおける基礎的データの収集と、経皮免疫のメカニズム解明を行い、細胞膜透過性ペプチドや免疫活性化物質(アジュバント)アジュバントの添加およびそれらの最適化によって、効率の良い抗体産生を検討する。またこれらが成功した場合、次の展開として花粉症の免疫療法ならびにがん免疫療法への応用へと展開し、本格的なワクチンとして機能するのかを検討する。開発したS/O化技術によって、抗原が角層を通過可能であることは明らかにした。したがって次年度以降は抗原が表皮に浸透した後の過程について、(1)ランゲルハンス細胞への移行と(2)免疫機能の増強の2点を達成可能な新しい経皮免疫システムの創製に挑戦する。(1)への挑戦の例として、細胞膜透過性ペプチドの利用が有効であると考えられる。現在までに非常に多くの細胞膜透過性ペプチドが報告されており、さらに近年これらのペプチドを用いて経皮デリバリーを行った例が報告され始めた。我々はこの点に注目し、細胞膜透過性ペプチドを添加することで(1)を達成することを試みる。(2)に関しては、リンパ節中のT細胞やB細胞の働きを活発化させる免疫活性化物質(アジュバント)の利用が有効であると考えられる。ここで候補となるのは古くから経皮免疫において用いられてきた易熱性エンテロトキシンやCpGオリゴヌクレオチドなどが挙げられるが、我々のキャリアは疎水性の物質でも親水性の物質でも自由に封入することが可能であるという特徴を生かし、今まで使われることの無かった疎水性アジュバントの利用という初めての試みにも挑戦する。
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