研究課題/領域番号 |
24227001
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深田 吉孝 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80165258)
|
研究期間 (年度) |
2012-10-26 – 2017-03-31
|
キーワード | 体内時計 / サーカディアンリズム / シグナル伝達 / 脳・神経 / 光生物 / 長期記憶 / 転写遺伝子 / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
交付申請書に記載した3課題に絞り以下の研究成果を得た。 《1》入力系: マウス網膜の光感受性神経節細胞ipRGCに存在する光受容蛋白質OPN4が三量体G蛋白質を介した新たなシグナル伝達経路を駆動する可能性を見出した。そこでCre/loxPシステムを用いて、ipRGC選択的にこのG蛋白質αサブユニット遺伝子を欠失した変異マウスを作出した。 《2》脳機能:前脳特異的なBmal1 KOマウスを作成し、情動や記憶形成効率の概日変動が消失する事を明らかにした。また、海馬初代培養細胞を用い、細胞刺激に伴うERKの活性化が SCOP 量に依存して上昇する事を見出した。つまりSCOP 量の概日変動がERK の活性化レベルを制御し、記憶形成効率のリズムを生み出すと考えられた。 一方、我々はニワトリ松果体が新奇ニューロステロイドである7αOH-プレグネノロンを合成分泌することを見出していたが、マウスでの微量定量解析に向け、HPLCと組み合わせた精密質量分析の方法を新たに開発した。 《3》分子時計:カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII)がCLOCKをリン酸化し、その結果、CLOCK-BMAL1の複合体形成が促進されて転写活性が上昇する事を見出した。CaMKIIの活性阻害により細胞リズムの振動は減弱し、CaMKIIalphaの活性欠損マウスでは、恒暗条件においてEvening-Morning振動体の脱共役により一日の活動時間帯が延長する重篤なリズム障害を示した。細胞レベルでは、CaMKII阻害により視交叉上核ニューロンの個々のリズム同調が減弱し、左右の神経核のグローバルな同期も崩れることを見出した。以上の成果はGenes Dev.誌に掲載された。この他、CRY1、CRY2、CLOCK、DBPなどの時計タンパク質と新たに相互作用する因子をインタラクトーム解析から同定した。現在、これら相互作用因子の機能解析を通じて、時計タンパク質による新たな時計制御機構を探っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度、光シグナルの入力点となるipRGC選択的にG蛋白質αサブユニット遺伝子を欠失する変異マウスを作出できたので、次のステップである個体レベルでの行動解析を進めている。また、時計機構の中枢タンパク質であるCLOCKをリン酸化するキナーゼとしてCaMKIIを同定することができた。CaMKIIalphaの活性欠損マウスは恒暗条件において、一日の活動時間がCaMKII活性の低下によって延長し、その後、活動と睡眠を不規則に繰り返す重篤なリズム障害を示すことを見出した。さらにこの時、時計中枢である視交叉上核ではニューロン間のカップリングが破綻し、さらに、左右の視交叉上核のリズムが脱同調することが判明した。遺伝子変異マウスを用いた先行研究において、行動リズムのこのような表現型は初めての例であり、当初の予想を超えるインパクトを与える研究成果となった。さらに、時計タンパク質とのインタラクトーム解析では、数多くの新しい翻訳後修飾部位を同定すると共に、新規時計関連因子を発見した。本研究課題を継続することにより、計画調書作成時の想定を大きく上回る成果が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
交付申請書に記載した3課題に分けて今後の推進方策を記載する。 《1》入力系: OPN4が実際にipRGCにおいて新規シグナル経路を光活性化することを検証するため、このシグナル経路に特異的な二次メッセンジャーの発光レポータ遺伝子を、ipRGC特異的かつ高効率に発現する組み換えマウスを獲得する。新規シグナル経路の個体レベルでの役割を探索するため、本年度に作成したG蛋白質αサブユニット遺伝子を欠失する変異マウスを用いて行動解析を行う。 《2》脳機能:SCOP に依存する長期記憶効率が概日変動するメカニズムを詳細に解析するため、SCOP KO や前脳特異的時計分子ノックアウトを用いて、海馬依存性の記憶形成に係る SCOP 下流分子の解析を行う。また、7αOH-プレグネノロンの哺乳類における役割に迫るため、7α-OHプレグネノロンのマウス脳内動態を明らかにする。 《3》分子時計: CRY2のSer557にAla変異を導入したノックインマウスを作成できたので、CRY2のリン酸化依存的な分解が個体の行動リズム、細胞リズム、および分子時計に及ぼす影響を調べる。また、これまでの大規模データの取得過程で浮かび上がったCLOCKの標的遺伝子の1つとして、RNAのA-to-I編集酵素ADARB1に着目し、RNA編集が時刻依存的に制御されている可能性を調べる。さらに、ADARB1の欠損により個体や細胞レベルの時計機構にどのような影響が見られるかを解析する。
|