研究課題
《1》入力系:マウス網膜の光感受性神経節細胞ipRGCに存在する光受容蛋白質OPN4が新たなシグナル伝達経路を駆動する可能性を見出した。そこで、この経路がipRGCにおいて実際に光活性化されることを検証するため、二次メッセンジャー検出用レポータ遺伝子をipRGCに発現誘導する変異系統を作製した。《2》脳機能:前脳特異的なプロモータを用いて、前脳特異的にSCOPを欠損するマウス (SCOP cKO) と Bmal を欠損するマウス (Bmal cKO) を作製した。これら変異マウスでは長期記憶効率が低下し、長期記憶効率の日周変動が消失した。前脳の概日時計機構がSCOP を介して長期記憶効率の日周リズムを形成すると考えられた。また、Scop-flox マウスの扁桃体 BLA にCre発現アデノ随伴ウィルスを局所投与し、BLA特異的にScop を機能阻害したところ、不安様行動の日周変動が消失し、SCOP cKOと同様、不安様行動が一定の低値を示した。一方、7α-OH-Preg合成酵素のノックアウトマウスを用いて情動の測定をおこなったところ、野生型で見られる鬱様行動の時刻依存性が減弱することを見出した。《3》分子時計:時計タンパク質CRYとのインタラクトームにより新規相互作用因子として、脱ユビキチン酵素USP7と、筋萎縮性側索硬化症の関連因子であるTDP-43を同定した。また、時計タンパク質BMAL1をユビキチン化するE3リガーゼとしてUBE3A/E6APを同定した。この研究成果は、ヒトパピローマウイルスの感染による細胞ガン化と体内時計の破綻の関連を示す重要な知見である。また、酸化ストレスシグナルの中心的な転写因子Nrf2がリズミックに転写制御され、肺胞繊維化の防御機構として重要な役割を果たすことを示した。さらに、軟骨形成の鍵因子Nfatc2がリズミックに転写制御され、時計振動の乱れが変形性関節症の発症へとつながるリスクを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
《1》入力系:当初の予定どおり、OPN4新規シグナル経路の二次メッセンジャーを検出するための遺伝子改変マウスを作製した。《2》 脳機能:予定通り前脳における体内時計の破壊や Scop の機能阻害を行い、長期記憶や不安様行動の概日変動の消失を示した。さらに中枢時計以外の脳部位の時計機構が記憶や情動の概日変動の表出に重要である事を明らかにした。特に、扁桃体BLAでのSCOP の変動が不安様行動の日周変動を生み出すことを示す事ができた。《3》分子時計: 時計タンパク質を軸にしたインタラクトーム解析から多くの新規相互作用分子を同定し、その一部について順調にその機能を検証することができた。今後、さらに解析を展開し、これら新規時計関連分子を切り口に、時計振動の正確な理解を深めたい。さらに英国マンチェスター大学との共同研究として、時計振動からの出力リズムの重要性を示すことができた。体内時計の乱れが導く疾病の発症メカニズムの解明は、多くの現代病を根本的に解決することにつながる重要な知見である
1》入力系:本研究課題の目標の一つである、OPN4新規シグナル経路がipRGCで光駆動されることの直接検証を行う。《2》効率のよい長期記憶形成のためにはSCOP の存在が重要であるが、長期記憶形成においてSCOP下流のシグナル伝達経路としてERK/MAPK 経路の関与が考えられる。SCOP-ERK 経路が時刻依存的な記憶効率の変動と相関するかを検討する。扁桃体BLA においてSCOP と情動表出の間を繋ぐ分子メカニズムを特定する。また、脳における7α-OH-Preg の挙動を明示する。《3》分子時計:E-boxからのリズム出力としてADAR2に焦点を絞り、その機能解析を行う。さらに、これまでのE-box研究で培ったノウハウを時計シスエレメントD-boxに対して展開し、時計振動がどのように様々な生理機能リズムへとつながるのかその全貌の解明を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 10件、 招待講演 9件) 図書 (5件) 備考 (1件)
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http://www.biochem.s.u-tokyo.ac.jp/fukada-lab/index-j.html