研究課題
基盤研究(S)
光化学系II複合体(PSII)の水分解・酸素発生機構を解明するためには、PSIIの酸素発生中心:Mn4CaO5クラスターの反応中間体(KokサイクルのSi状態、i = 0 - 4)に関する構造情報が必要不可欠となる。本研究では、S0状態を実現している可能性のある(1)PSIIのヨウ素または臭素置換体、(2)4種類の除草剤複合体、(3) PsbMサブユニット欠失変異体の、合計7種類のPSII試料に対してX線結晶構造解析を行うとともに、酸素電極を用いた酸素発生活性の測定、熱蛍光発光の測定を行うことにより、酸素発生の構造・機能の相関に関する研究を進める。また(4)同型性の高い結晶を多数準備することによりMn原子のX線還元を1%以下に低減してインタクトなMn4CaO5クラスターの酸化状態を明らかにするとともに、(5) フェムト秒レーザーの多光子吸収を利用してPSIIのS2状態を実現する技術を開発し、(4)と同様の方法によりS2状態を確認してその結晶構造を明らかにする。本年度は、まず(1)から(3)についてそれぞれの結晶構造解析を進め、(1)ではヨウ素の還元力によりMn4CaO5クラスターがよりS0状態に近づいている可能性が浮上した。また(2)では阻害剤が還元力のあるプラストキノンと入れ替わり、(3)ではPsbMの欠失がプラストキノンとの結合性を低下させていることにより、PSIIが相対的に酸化側にシフトして、よりS1状態の特性が顕著になっている可能性が浮上した。現在それぞれの構造解析を完了させ、本予算により導入した各種分光装置によりこれらの可能性を確証しようとしている。(4)については、まず、同型性の高い結晶を多数調製するための結晶化条件の検討を進め、(5)については、集光したレーザーをPSII結晶に照射してS2状態を実現するための装置を制作して実験系を確立した。
2: おおむね順調に進展している
「研究実績の概要」の項に記述した5つの目標の内、(1)から(3)については、合計7種類のPSII試料に対してX線結晶構造解析を既に完了させており、その達成度は70%に到達している。(4)については、同型性の高い結晶を確保する以前に、複数の実験者の間で結晶化の再現性が低下するという問題が生じ、現状の達成度は20%程度と考えている。(5)については、レーザー照射の実験系を確立したものの、実際にS2状態の結晶を調製できるかどうかはこれからの問題であり、その達成度はやはり20%程度である。
上述の5つの目標の内、(1)から(3)については、7種類のPSII試料に対して酸素発生活性を測定するとともに、各種の分光学的測定を行って酸素発生の構造・機能の相関に関する議論を進める。(4)については、まず、複数の実験者の間で実験プロトコルを統一して結晶化の再現性を高め、同時に結晶の同型性も確保して目標の達成を目指す。(5)については、最初は溶液試料に対してレーザー照射し、ESR実験からS2状態が実現されていることを確認する。この予備実験の結果をふまえてS2状態の結晶を調製し、試料をSpring-8に持ち込んで回折強度測定を行う。
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