研究課題
基盤研究(S)
本研究では、生体内組織や外分泌腺で作られるマウス嗅覚受容体のナチュラルリガンドを同定し、その匂い物質が生物学的・生理学的にどのような機能をもつか解析を行う。本年度は、まず、嗅覚受容体のナチュラルリガンドのスクリーニングをおこなうために、組織抽出物に対するアッセイ系の確立をおこなった。アフリカツメカエル卵母細胞に、膜移行促進シャペロンRTP1、Gタンパク質Golf、CFTR(cAMP応答チャネル)を導入した卵母細胞で、最も効率のよい嗅覚受容体の機能発現条件を見出した。次に、外分泌腺抽出液を嗅覚受容体のナチュラルリガンドのソースとして応答アッセイを行ったところ、undecalactoneを合成リガンドとするOlfr288受容体が、包皮腺の抽出液に強く応答することがわかった。活性因子の実体を明らかにすべく、応答活性を測定しながら包皮腺に含まれている物質を分離精製していくと、応答を引き起こす画分はただ一つに絞られ、構造解析を行った結果、(Z)-5-tetradecen-1-ol (Z5-14:OH)が同定された。実際にZ5-14:OHはOlfr288を活性化することが示され、Olfr288のナチュラルリガンドであることが判明した。次に、マウスの尿の揮発性成分を固相抽出しGC-MSを用いて分析した。その結果、Z5-14:OHは性成熟した雄マウス特異的に包皮腺から分泌される尿の揮発性成分であること、その分泌はテストステロン依存性であることが明らかになった。Z5-14:OHが雄の尿がもつ雌を惹きつける活性に寄与している可能性について検証したところ、雌マウスはZ5-14:OHを含む去勢雄の尿に明確な嗜好性を示した。以上の結果から、Olfr288のナチュラルリガンドとして、雄の尿を介して発せられ、雌の誘引活性に関わるZ5-14:OHを同定することに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
順調にアッセイ系が立ち上がり、あるひとつの嗅覚受容体のナチュラルリガンドを同定することに成功した。同定した物質は、哺乳類で初めてみつかった物質であり、インパクトの高い成果として、Nature Chemical Biology誌に発表することができた。
今後は,鼻のみならず様々な組織に発現している嗅覚受容体の内在性のナチュラルリガンドの同定に挑む。特に、卵巣に発現している嗅覚受容体の内在性リガンドを、卵巣の抽出液から単離・同定をおこなう。
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Nature Chemical Biology
巻: 9 ページ: 160-162
10.1038/nchembio.1164
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/biological-chemistry/