研究課題
本研究は、生体内組織や外分泌腺で作られるマウス嗅覚受容体のナチュラルリガンドを同定し、その匂い物質が生物学的・生理学的にどのような機能をもつかを明らかにすることを目的としている。昨年度、卵巣で発現する嗅覚受容体MOR-O1の内在性リガンド候補物質を卵細胞に投与するとcAMPの上昇が見られ、第一減数分裂の再開に伴う卵核膜の消失のタイミングを遅らせることがわかった。本年度は、この遅延がMOR-O1を介しておきていることを検証するために、MOR-O1のノックアウトマウスを作製し、卵核膜消失への影響を調べた。すると、ノックアウトマウスにおいて、第一減数分裂の再開に伴う卵核膜の消失が遅れることがわかった。当初予測した結果とは異なったが、この結果は、MOR-O1が卵巣で何らかの機能を果たしていることを示唆している。一方、MOR-O1のノックアウトマウスでは、鼻におけるナチュラルリガンドZ5-14:OHに対する嗜好性が消失していた。そこで、MOR-O1が嗜好性に必要十分かを検証する実験に着手した。また、精巣に発現するMOR-S1の内在性リガンドの同定、および昨年度見出した哺乳類で高度に保存された嗅覚受容体MOR18-1, MOR18-1, MOR103-1の内在性リガンドの同定に着手し、カラム精製を重ねて、候補物質を絞りこみつつある。さらに、MOR18-1, 18-2, 103-1の機能を解析するために、ノックアウトマウスを作製した。一方、新たに最近見つけたムスコン受容体MOR215-1について、詳細なリガンド構造活性相関をおこない、マウスの包皮腺に受容体活性物質があることがわかったので、内在性リガンドの同定に着手した。また、内在性リガンドを見つける際に役に立つ嗅球イメージングに関して、メントール両鏡像体を特異的に認識する嗅覚受容体を同定した際に、技術改良することに成功し、その結果を論文化した。
3: やや遅れている
本プロジェクトの大きな目的は二つあり、鼻に発現している嗅覚受容体のナチュラルリガンドの同定と、鼻以外の組織に発現している嗅覚受容体の内在性リガンドの同定である。前者に関しては、第一報をNature Chemical Biology誌に発表し、本年度、J. Neuroscienceにin pressとなっている論文がある。後者に関しては、昨年度、哺乳類で高度に保存されていて鼻以外の様々な組織に発現している嗅覚受容体の同定をGenome Researchに報告して、世界30国ほどのニュースに取り上げられた。しかし、卵巣に発現する嗅覚受容体MOR-O1に関しては、本年度、ノックアウトマウスの結果を待って投稿予定でいたが、表現型が明確でないため、論文化が遅れている。一方で、本年度、頸動脈小体に発現する嗅覚受容体に関しては、アメリカのグループがNatureに発表した。競争が激化しているなか、若干、我々のグループに遅れが感じられるのは否めないが、世間的にも注目されていて成功すればトップジャーナルレベルの成果となるので、残り1年でスパートをかけたいと思っている。
MOR-O1に関しては、ナチュラルリガンドおよび内在性リガンドを同定することに成功している。S1, 18-1, 18-2, 103-1, 215-1の内在性リガンドの同定についても進捗しているので今年スパートをかける。また、これらの受容体のノックアウトマウスの作製も終了しているので、機能解析と並行して表現型の解析を進め、鼻以外で発現している嗅覚受容体の機能と生物学的意味について新たなコンセプトがだせるように研究を進める。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (1件)
J. Neurosci.
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http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/biological-chemistry/