研究課題/領域番号 |
24227004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
濡木 理 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10272460)
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研究分担者 |
MATURANA ANDRES 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (10452004)
伊藤 耕一 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (10262073)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子構造・物性 / X線 / 生体分子 / タンパク質 / 薬理学 |
研究実績の概要 |
<Ca2+/H+トランスポーターCAX>Ca2+/カチオン交換輸送体(CaCA)の機能不全は,ヒトにおいて高血圧を惹起する.我々は, Ca2+/H+交換輸送体CAXの結晶構造を 2.3Å分解能で決定した結果,コアドメインとゲーティングバンドルから構成されることが明らかになった(Science, 2013).既に発表されているCa2+/Na+交換輸送体の構造が細胞外開構造であったのに対し,本構造は細胞内開構造であった.2つの構造の比較から,CaCAは,ゲーティングバンドルがコアの上の疎水性パッチ上を滑ることにより,ゲーティングへリックスが半回転し,その上の親水性クラスターが,細胞外側の透過孔を向いたり,細胞内の透過孔を向くことを繰り返すことで,細胞外開構造と細胞内開構造の間を構造変化することを明らかにした.さらに,ゲーティングバンドルが滑るための疎水性パッチは,H+やCa2+の結合に依存して形成されることが明らかとなり,陽イオン依存的な構造変換の機構を解明した. <ペプチドトランスポーターPOT>POT (Proton-dependent oligopeptide transporter)はプロトンの濃度勾配を利用してオリゴペプチドを細胞内に取り込む輸送体である.ヒトのホモログPepT1, 2は,小腸の絨毛細胞において,本来の基質であるペプチドの取り込み以外に,経口摂取した薬剤の血流への取り込みにも働いている.また,POTはMFS(Major Facilitator Superfamily)に属する輸送体であり,内向き開口状態,閉状態,外向き開口状態の3つの構造を繰り返して輸送を行なうことが報告されている.我々は,細菌由来POTに関して,内向き開口状態の構造を1.9Å分解能で解明し,MDシミュレーションと組み合わせることで,アスパラギン酸残基のプロトン化に伴ってジペプチドが結合することで,内腔表面の電荷分布が変化し,内向き開口状態から閉状態に移行する機構を示唆することに成功した(PNAS, 2013).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は, Ca2+/H+交換輸送体の結晶構造を 2.3Å分解能で決定した結果,コアドメインとゲーティングバンドルから構成されることが明らかになった(Science, 2013).Ca2+/H+交換輸送体は,ゲーティングバンドルがコアの上の疎水性パッチ上を滑ることにより,ゲーティングへリックスが半回転し,その上の親水性クラスターが,細胞外側の透過孔を向いたり,細胞内の透過孔を向くことを繰り返すことで,細胞外開構造と細胞内開構造の間を構造変化することを明らかにした.さらに,ゲーティングバンドルが滑るための疎水性パッチは,H+やCa2+の結合に依存して形成されることが明らかとなり,陽イオン依存的な構造変換の機構を解明した. さらに我々は,イオン輸送体だけでなく,栄養分子や薬剤の共役輸送体の研究を進めた. POT (Pro-ton-dependent oligopeptide transporter)はプロトンの濃度勾配を利用してオリゴペプチドを細胞内に取り込む輸送体である.ヒトのホモログPepT1, 2は,小腸の絨毛細胞において,本来の基質であるペプチドの取り込み以外に,経口摂取した薬剤の血流への取り込みにも働いている.また,POTはMFS(Major Facilitator Superfamily)に属する輸送体であり,内向き開口状態,閉状態,外向き開口状態の3つの構造を繰り返して輸送を行なうことが報告されている.候補者らは,細菌由来POTに関して,内向き開口状態の構造を1.9Å分解能で解明し,MDシミュレーションと組み合わせることで,アスパラギン酸残基のプロトン化に伴ってジペプチドが結合することで,内腔表面の電荷分布が変化し,内向き開口状態から閉状態に移行する機構を示唆することに成功した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2013).
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今後の研究の推進方策 |
これまで多くの輸送体の構造機能解析を行なうことで,普遍的な輸送機構,基質認識機構,輸送制御機構が見えて来た.今後は,チャネルやトランスポーターの輸送過程における複数状態の結晶構造を決定し、MDシミュレーションで動的なメカニズムを推測し、変異体の機能解析を行なって仮説を実証して行くことによって、膜輸送体の分子機構を原子分解能で解明して行く。これらのメカニズムをより普遍的な原理に昇華するために,より多くの新規チャネル,トランスポーターの構造機能解析を推進するとともに,より高次の細胞機能に働く膜蛋白質にも注目して研究を進める.
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