研究実績の概要 |
<鉄排出輸送体>フェロポーチンは細胞外へのFe2+の排出に働き、マクロファージや脾臓細胞が赤血球を分解して生成したFe2+を血中へと還元し、鉄イオンのリサイクルに働く。ペプチドホルモンであるヘプシジンにより機能が制御される。慢性炎症ではヘプシジンの発現が亢進するため、フェロポーチンの働きが抑制され、血中の鉄イオン濃度が下がって、慢性炎症性貧血が引き起こされる。本研究では、フェロポーチンの原核生物ホモログBbFPNの結晶構造を、細胞外開構造と細胞内開構造の両方で解明し、鉄イオンの認識機構、輸送機構、さらにヘプシジンが細胞外開構造を固定することでフェロポーチンの働きを抑制するモデルを提唱した(Nat.Commun., 2015)。 <ATP-gated ion channel P2X>P2Xは細胞外のATPが結合するとイオン透過孔が開き、Ca2+を初めとするカチオンを透過するチャネルで、慢性炎症と深く関係する。本研究では、アメーバ由来のP2Xの結晶構造を決定し、脱感作状態の立体構造を初めて明らかにした。さらに、Zn2+でチャネルの機能が抑制される分子機構を初めて解明した(Cell Rep., 2016)。 <アミノ酸排出輸送体YddG>細胞内に過剰に存在するアミノ酸は、細胞に取って害となるため、これを排出する輸送体の存在が報告されていた。本研究では、そのアミノ酸排出輸送体YddGがVal, Thr, Glu, Lysと様々なアミノ酸を排出することを、メタボローム解析とリポソームアッセイにより検証し、その結晶構造を2.6A分解能で決定した。YddGはDMT superfamilyに属し、その構造は10本の膜貫通ヘリックスが入れ子に組合わさった、新規構造であった。さらに、基質認識機構、輸送機構を解明し、DMT輸送体の分子進化機構も提唱した(Nature,2016)。
|