研究概要 |
本研究課題は、SOX17陽性の胆管細胞の動態・機能を明らかにすることにより、哺乳類の胆管系の構築の分子機序とその形成異常による肝・膵・胆管系の先天性疾患の分子基盤の解明を目的としている。Sox17+/-マウスにおけるSOX17+胆管前駆細胞を含む胆嚢原基と胆嚢管の領域に分けて発現解析行った。Sox17 +/-胆嚢では、胆嚢特異的な遺伝子発現の低下、胆嚢管に特異的な遺伝子の発現が上昇しており、「Sox17+/-胆嚢は、胆嚢管化している」ことが判明した。これは、Sox17 +/-胆嚢上皮細胞で、肝内胆管, 膵管の上皮細胞に特異的なSOX9発現レベルが有意に上昇していることでも確認できた。さらに、E15.5のSox17 +/-胆嚢原基では、野生型と比べ急性炎症,創傷治癒関連の遺伝子群の発現が上昇していることから、胆管炎も発症していることも判明した。さらに、E15.5のSox17+/-胆嚢で特定のシグナル経路が有意に減少していることを見出した。発現解析,器官培養下におけるrescue実験の結果、従来考えられていた Notch, Nodalシグナル以外のシグナル因子がSOX17により胆嚢上皮から発現上昇により分泌され,胆嚢上皮周囲に位置する間葉系細胞(その受容体の発現細胞)に作用している可能性が判明した。上皮周囲の間葉系組織から、positive feedback により胆嚢上皮に逆に作用し、胆嚢上皮でのSOX17 発現を上昇,維持するシグナル経路の存在も強く示唆された。これらの結果は,1) 胆嚢,胆管の形態形成は、従来の考えられていたメカニズムとは異なり,2種類の異なったシグナル経路を介して誘導されること、2)このシグナルにより胆嚢,胆管前駆細胞が維持されていることが強く推測された。今後,Sox17の上流下流のこれらのシグナル経路に着目して機能解析を行い、胆管上皮の破綻の原因、胆嚢炎,胆管炎,胆道閉鎖に至る病態メカニズムの全貌が解明できるものと期待される。
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