研究課題/領域番号 |
24228007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
舟川 晋也 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (20244577)
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研究分担者 |
小崎 隆 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (00144345)
縄田 栄治 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30144348)
間藤 徹 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50157393)
渡邉 哲弘 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (60456902)
杉原 創 九州大学, 学内共同利用施設等, 助教 (30594238)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 資源循環バランス / 温暖化対応 / 熱帯農業 / 生産生態資源管理 |
研究実績の概要 |
特に今年度得られた重要な成果について述べる。 1) タンザニア各地の農耕地における養分フラックスを観測した結果,年降水量が700~800 mm以下程度の地域では,そもそも作土層からの土壌水流出がほとんどみられなかったこと(モロゴロ州各調査地),それ以上の地域(イリンガ州砂質土壌,ムベヤ州粘土質土壌)においては,水・養分の下方流出に関して土性の影響がきわめて大きいことが明らかとなった。 2) カメルーン東部州の森林・サバンナ境界帯においては,特に森林および森林を開墾した耕地双方において,強い酸性条件下であるにもかかわらず,硝酸化成が活発で,硝酸イオンの下方流出が森林でさえも大きくなることが明らかとなった。これは生態学的にかなり珍しい事例であるといえ,この背景にある微生物プロセスの解明が,現在重要なテーマとなっている。 3) 他の温帯半乾燥地(カザフスタン,ハンガリー)で行った同種の圃場実験の結果とあわせて解析したところ,1回の降雨イベントにおける土壌有機物の分解率は,熱帯半乾燥地の中・細粒質土壌(タイ,タンザニア)の方で大きいこと,また可分解性有機物が過剰に存在する条件下では,後者において微生物バイオマスがより迅速に応答し増加することが明らかとなった。すなわち,ここで想定しているエフェメラル・ニッチの形成・作出は,熱帯地域においてこそより有効なアプローチとなりうることが示された。一方土壌有機物蓄積量のきわめて小さい熱帯砂質土壌においては,降水などによる土壌微生物の応答が些少なことも判明し,温帯・熱帯を問わず,砂質土壌における土壌有機物・微生物動態の管理は困難であることが示唆された。 4) インドネシア・カリマンタン島における土壌鉱物分布を,母材特性(けい長質か苦鉄質か)と温度条件という2つの生成条件から統一的に記述した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のロードマップは大きく前期・後期の2期に分けて考えることができる。すなわち, 1) 課題2)~課題4)の個別成果を課題1)に統合し,元素動態モデルをより強化することに力点が置かれる前期。 2) 1)で構築したモデルと,課題5)および課題6)の個別成果を統合し,気候変動に対する持続性対応,技術的対応を可視化することを中心課題とする後期。 ここまで見てきたように,前期に重点的に取り組まれた課題群に関しこれまで一定の成果を得ていること,後期に中心課題となる課題5),課題6)に関しても,気象データや土壌データなど基盤データの収集・解析・GIS化が進んでいることを勘案し,現段階での評価を「当初の目標に向けて順調に研究が進展しており,予定どおりの成果が見込まれる」とした。 今後,課題1)~課題4)の内容を充実させるとともに,ここで得られた学術的成果を,気候変動に対する持続性対応,技術的対応として可視化し,幅広い専門の研究者あるいは農業実践者に理解していただけるモデルとして提示できるものとしたい。
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今後の研究の推進方策 |
課題2)~課題4)の個別成果を課題1)に統合し,元素動態モデルをより強化するす。その上で,課題1)~課題4)を統合して構築したモデルと,課題5)および課題6)の個別成果を統合し,気候変動に対する持続性対応,技術的対応を可視化する。 1) 課題1)「農耕地生態系における炭素・窒素フラックスの同時管理」および課題2)「エフェメラル・ニッチ作出による土壌微生物の戦略的利用」に関わる現地圃場実験において,特に炭素・窒素安定同位体を利用した圃場トレーサー実験を行う。また下方流がごく少量と判断された半乾燥地タンザニアにおいては,1) バイパス流などによる下方フラックスの有無,2) 脱窒などの放出経路の再評価,を中心とした農耕地生態系からの資源損失の再評価を進める。 2) 課題3)「土壌鉱物性対応型侵食抑止技術の確立」に関わる圃場実験。平成27年度は特に,カメルーンFerralsols近縁土壌において詳細な解析を進めるとともに,実践的課題として,各地域において土壌表面被覆とはどのようなものか解析するための圃場実験を行う。 3) 課題4) 「低肥料適応型品種の作出」によって候補となったイネ品種の選抜を完了し,タイにて圃場実験を開始する。 4) 課題5)「広域レベルにおける生産生態資源管理モデルの開発」における各種データの統合。課題1)~3)の成果のうち,特に変動気候下における農地の持続性に関わる部分を構造化しGIS上で統合する。 5) 課題6)「栽培技術の最適化と可変的作付システムの開発」。圃場実験と合わせて各地域で広域調査を組織し,標高・斜度等の位置情報,現行の農民の作付け体系や栽培技術のバリエーション,土壌の分析データを追加収集する。また課題1)~4)の成果のうち,特に変動気候下における農耕技術的対応に関わる部分を構造化し,栽培技術の最適化と可変的作付システムの開発を行う。
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