研究課題
これまでに植物免疫を阻害する化合物を3個単離して、植物免疫ホルモンであるサリチル酸と構造的に類似していることを見いだしている。このうち免疫阻害剤P7が特異的に結合するタンパク質(CUPIN1と呼ぶ)を精製単離して同定している。抗体を用いた解析により、CUPIN1はアポプラストに存在することがわかった。また、その共結晶構造解析とアミノ酸残基の変異体解析により、P7と結合するポケットが存在することが明らかになった。またCUPIN1をコードする遺伝子にP7が結合できない変異が入った植物体はホモ化すると致死になっていたが、6回のバッククロスをおこない、この致死表現型がこの遺伝子の変異によるものではないことが分かってきた。サリチル酸系の免疫シグナル伝達系におけるマスター因子であるNPR1タンパク質の細胞内での挙動を、GFP複合体を用いて解析したところ、サリチル酸添加時に観察されるNPR1の核内での蓄積が、P7によって阻害されることが明らかになった。これによりP7はNPR1の上流に位置することが示された。さらにサリチル酸添加時に観察される細胞内の酸化還元(レドックス)状態の変化がP7によって阻害されることを示すことが出来た。また病原体のゲノム、トランスクリプトーム解析をおこない、病原性に関与する遺伝子群の同定が可能となってきた。
1: 当初の計画以上に進展している
ケミカルバイオロジーによる新規免疫阻害剤の発見、阻害剤に対する非感受性変異体の同定、阻害剤結合タンパク質の同定、共結晶解析からの結合様式の解明、シグナル伝達系における作用位置の特定、細胞内の生化学的解析など、研究は予想以上に順調に推移している。これと同時に、病原体のゲノム解析も平行しておこなってきており、宿主である植物側の免疫システムとそれに対抗する病原体の攻防の全体像を理解する上での基盤が確立できたと考えられる。
免疫阻害剤がサリチル酸による細胞内レドックス変化を阻害していることが明らかになったが、これにCUPIN1がどのように貢献しているかを、遺伝学的、生化学的に解析していくことで、その生物学的機能を明らかにする。CUPIN1遺伝子に非常に似ているホモログが一つシロイヌナズナのゲノム上に存在することから、重複した機能が予想されるため、2重変異体をCRISPERなどの新技術を導入して確立する。またトランスクリプトーム解析、プロテオーム解析などを駆使して、阻害剤を添加した細胞、あるいは2重変異体における細胞が、どのような状態になっているかなど、全体像を明らかにしていく。また、細胞内レドックス変化を細胞がどのようにして認識し、細胞内シグナルあるいは細胞間シグナルとして伝達していくのかを明らかにするシステムを構築する。他の植物免疫に重要なタンパク質はこれまでどおり、生化学的解析、発現解析、遺伝学的解析をおこない、その機能を明らかにする。また平行して新規病原体ゲノム解析、トランスクリプトーム解析をおこない免疫システムをいかに阻害して、病原性を獲得していくのかを明らかにする。
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