研究課題
創薬の初期段階では多数の候補化合物が合成されるが、適切な体内動態・有効性・安全性を有する医薬品として市場に出るものは極僅かである。本研究では、多様なin vitro試験により得られたパラメータを組み入れた数理モデルを構築し、個人差によるばらつきまで考慮した薬物動態の経時変化を定量的にシミュレーションすることで、薬物代謝酵素・トランスポーターを介した薬物間相互作用を受けにくい医薬品、個人間変動や病態による影響が少ない医薬品および治療域の広い医薬品を予測するための方法論を確立することを目的としている。本年度の成果としては、肝取り込みトランスポーター OATPsを介した薬物間相互作用をPBPKモデルにより解析するための標準法を構築するとともに、パラメータの広域最適化法(Cluster Newton Method)によりPBPKモデルにおける初期値に依存しないパラメータセットを網羅的に探索することで解析の信頼性を向上させることに成功した。また、肝取り込みおよび代謝過程で生じる体内動態の非線形性をPBPKモデルにより説明することに成功した。さらに、肝臓における薬効・阻害能等を予測する上で必須の非結合形薬物濃度を測定するための遊離肝細胞を用いたin vitro試験法を示すとともに、サンドイッチ培養ヒト肝細胞を用いて肝臓における輸送・代謝を統合的に評価しパラメータの精度を高めるための実験を行った。一方、薬物代謝酵素・トランスポーター機能の個人間変動を考慮したバーチャルクリニカルトライアルでも成果を得た。これらに加えて、体内動態を非侵襲的かつリアルタイムに解析可能な分子イメージング技術に基づき、PET標識体を用いた体内動態の定量的解析に関する研究を理研(神戸)と共同で進めており、得られた臓器内濃度推移データをもとにPBPKモデルを用いた予測精度をさらに向上させていくことを考えている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、ヒトにおける薬物トランスポーターの機能評価に有用な選択的基質(プローブ)および選択的阻害剤の開発を進めるとともに、トランスポーターの関わる薬物動態の個人間変動、病態時の変動および薬物間相互作用を定量的に予測する方法論を構築することを目的としている。これを達成するために、① 臨床データ(薬物間相互作用データ、非線形性データ)の生理学的薬物速度論(PBPK)モデルによる定量的解析法、② in vitro試験に基づきin vivoでの薬物動態(血中濃度推移、組織中濃度推移)を精度よく予測できる方法論(IVIVE)の確立、③ 輸送・代謝過程パラメータのばらつきを明らかにした上での仮想の臨床試験データを発生させ(モンテカルロシミュレーション)、臨床第II相試験における薬効用量の推定とバラツキの推定、第III相試験における薬効・副作用の推定とspecial population(人種、年齢、肝腎機能疾患時)における動態・薬効・副作用の中央値とバラツキの予測に関する研究で成果を得ており、当初の研究計画通りに進展している。
平成26年度は、引き続き本研究グループが見出したトランスポーターのプローブ薬および阻害剤を用いたin vitro試験(ヒトおよびマウスの遊離肝細胞・接着型肝細胞等)を実施することにより、in vitroにおける薬物動態パラメータを求める。また、プローブ薬と阻害剤をマウスに投与するin vivo試験で血中・胆汁中・尿中および臓器中の薬物濃度を測定することにより、体内動態特性と薬物間相互作用の有無を定量的に解析する。さらに、内在性トランスポーターのノックアウトマウスおよびヒトのトランスポーターのトランスジェニックマウスでも同様の試験を行うことにより、ヒトにおけるトランスポーターの寄与を予測する手法の検討も行う。これらのin vitroおよびin vivoパラメータをもとにして、モデリング・シミュレーションの手法に基づいて解析を行うことにより、in vitroからin vivoを補外するための方法論を構築する。続いて、本研究で実施済および実施予定の臨床試験データを用いた定量的な解析を実施してヒトにおける補外を試みると同時に、より高精度なパラメータを得るためのin vitro試験の追加と精密化も併せて行っていく。さらに、分子イメージング技術を基盤としたPET/SPECTプローブとして利用可能な医薬品もしくは医薬品アナログの探索を引き続き推進し、マウスに投与することで体内動態特性・臓器分布・トランスポーターに対する選択性を確認する。有用性および安全性が担保されたプローブについては、ヒトに投与する臨床試験を開始することでヒトにおける体内動態を明らかにし、モデリング・シミュレーションの手法に基づいて体内動態の統合的な解析を行うことで、血中のみならず臓器中の薬物濃度推移を定量的に予測するための方法論を確立する。
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