研究課題/領域番号 |
24229002
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
杉山 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, イノベーション推進センター, 特別招聘研究員 (80090471)
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研究分担者 |
前田 和哉 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 講師 (00345258)
伊藤 澄人 株式会社ジェノメンブレン(研究部), 基盤研究(S), 研究員 (20728969)
渡邊 恭良 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, センター長 (40144399)
家入 一郎 九州大学, 薬学研究院, 教授 (60253473)
新垣 友隆 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (60643187) [辞退]
吉門 崇 国立研究開発法人理化学研究所, イノベーション推進センター, 研究員 (70535096)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 薬物トランスポーター / 薬物代謝酵素 / 薬物間相互作用 / 生理学的薬物速度論モデル / 個人間変動 / バーチャルクリニカルスタディ |
研究実績の概要 |
平成27年度は、代謝・輸送過程の両方が関与する複雑な薬物間相互作用の解析を実施した。平成26年度に理研・九大・東大で実施した自主臨床試験「レパグリニドをモデル薬物にした肝に発現するトランスポーターおよび代謝酵素を介した薬物間相互作用についての検討」において、cytochrome P-450 (CYP) 2C8の阻害剤(トリメトプリム)もしくはCYP2C8 & organic anion transporting polypeptides (OATPs) 阻害剤(クロピドグレル)併用下で、OATPプローブ(ピタバスタチン)、CYP2C8プローブ(ピオグリタゾン)およびOATPs & CYP2C8基質(レパグリニド)の変動をstaticモデルに基づいて解析した。結果として、レパグリニドとクロピドグレルの相互作用は主としてCYP2C8の阻害を介したものであることを初めて示した。また、同年度に理研・東大・ピーワンクリニックで実施した自主臨床試験「OATPs, CYP3A4両方の基質薬物のクリアランスに占めるOATPs, CYP3A4の定量的な寄与を決定するための準薬効用量カクテル投与による相互作用試験」において、OATPs阻害剤(リファンピシン)もしくはCYP3A阻害剤(イトラコナゾール)併用下で、CYP3Aプローブ(ミダゾラム)およびOATP & CYP3A基質(ボセンタン、レパグリニド、クラリスロマイシン、ダルナビル、シメプレビル)の変動をstaticモデルで解析した。リファンピシンにより、これら基質の血中濃度は顕著に上昇していた。一方、イトラコナゾールによりミダゾラムの血中濃度が上昇していたにもかかわらず、イトラコナゾールの他の基質に対する相互作用の程度は基質により異なっていた。このことから、肝消失における律速過程(肝取り込みと代謝)の違いで基質を分類することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず、ヒトにおける薬物トランスポーターの機能評価に有用なプローブおよび選択的阻害剤の開発を進めた。平成26年度までに実施した複数の自主臨床試験と、ヒト肝細胞やトランスポーター発現細胞を用いたin vitro試験により、上記の目的をほぼ達成した。また、本研究はトランスポーターの関わる薬物動態の個人間変動、病態時の変動および薬物間相互作用を定量的に予測する方法論を構築することを目的としている。これらの予測においては、生理学的薬物速度論(PBPK)モデルの適切な使用が基本となることから、OATP基質と阻害剤の相互作用を例として、臨床試験の結果を用いたin vivoパラメータの見積もりと、ヒト肝細胞やミクロソームを用いたin vitroパラメータの検討を組み合わせることで、PBPKモデルを用いた標準的な解析法を提案した。さらに、トランスポーターに加えて代謝酵素が関与する複雑な薬物間相互作用については、プローブおよび選択的阻害剤を併用した臨床試験を実施して、トランスポーターおよび代謝酵素の寄与を定量的に予測するとともに、基質・阻害剤の臓器内濃度推移も明らかにする必要がある。平成26年度に実施した二つの自主臨床試験(薬物間相互作用試験)の結果に基づき、staticモデルで相互作用のメカニズムを明らかとした上で、種々の被相互作用薬についてPBPKモデルを構築するところまで進行している。以上のPBPKモデルを用いたヒトにおける平均的な薬物動態の解析とともに、薬物動態の個人間変動の予測も重要な課題となっている。本研究では、抗がん剤のイリノテカンをターゲットとし、トランスポーターおよび代謝酵素の遺伝子多型や発現量のばらつきを考慮したバーチャルクリニカルスタディを進めており、既に一定の成果をあげて学会で発表した。以上から、現時点で本研究の進展に支障はなく順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の研究計画の柱として、代謝・輸送過程の両方が関与する複雑な薬物間相互作用のPBPKモデルを用いた予測が挙げられるが、トランスポーターおよび代謝酵素の寄与を定量的に予測するとともに、基質・阻害剤の臓器内濃度推移まで明らかにする必要がある。本目的を達成するために、in vitro試験の結果を統合的に組み込んだin vitro-in vivo補外(IVIVE)方法論の確立を進める。具体的には、ヒト肝細胞やミクロソームを用いたin vitro試験で求めたパラメータを用い、PBPKモデルに組み込むことでヒトでの薬物動態・薬物間相互作用を予測可能な方法論を構築する必要がある。ヒト肝細胞(遊離、接着、サンドイッチ培養)を用いたin vitro評価法の精度を更に高めるとともに、臨床試験の解析に基づいたin vivoパラメータの見積もりと、in vitroパラメータを用いたシミュレーションの結果とを比較していく。複雑な薬物間相互作用の予測においては、特に、肝消失の律速過程を決定する血管側排出クリアランスと代謝&胆汁排泄クリアランスのIVIVEが重要であることから、ヒトPET試験の結果も用いることで研究を推進する。さらに、本研究計画のもう一つの柱である、ヒト薬物動態の個体間変動まで含めた予測を可能とするために、バーチャルクリニカルスタディの方法論を構築する。トランスポーターおよび代謝酵素の遺伝子多型・発現量、種々の生理学的パラメータのばらつきをヒトのデータをもとに明らかにするとともに、これらをPBPKモデルに組み込むことでヒトにおける薬物動態をdynamicに予測した例を蓄積する。イリノテカンは骨髄抑制・下痢の重篤な副作用を引き起こすことが知られていることから、これらの臨床における頻度を説明し得るPBPKモデルパラメータの取得を試みることで、他の薬剤にも適用可能な方法論を確立する。
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備考 |
国立研究法人理化学研究所 研究紹介 http://www.riken.jp/research/labs/rinc/sugiyama/ 理研杉山特別研究室ホームページ https://www.sugiyamalab.com/
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