神経幹細胞は、胎生期には盛んに増殖して活性化状態にあるが、成体脳では細胞周期静止状態でほとんど増殖しない。この活性化状態と静止状態を制御する分子機構は不明である。この制御機構を明らかにするために、神経幹細胞特異的に働くFucciマウス、すなわちNestin promoter/enhancer下にG0/G1期に発現するmKO2-hCdt1 (pNes-mKO2-hCdt1)、およびS/G2/M期に発現するmCherry-hGem (pNes-mCherry-hGem)をつないだコンストラクトを持つトランスジェニックマウスを作製した。さらにHes1 promoter/enhancer下にd2EGFPを発現するトランスジェニックマウスと掛け合わせることで、G0/G1期の胎児神経幹細胞およびS/G2/M期の胎児神経幹細胞をFACSによって別々に集めた。また、Nestin promoter/enhancer下にmCherryを、GFAP promoter下にd2EGFPを発現するトランスジェニックマウスの成体脳から神経幹細胞を採取した。それぞれの細胞について網羅的RNAシークエンスを行ったところ、胎児神経幹細胞と成体神経幹細胞とで2倍以上の発現差のある遺伝子を約1000種類同定した。我々の以前の解析から、Hes1やMash1の発現振動が活性化状態に重要な役割を担うことを明らかにしてきた。しかし、今回同定した遺伝子群には、Hes1やMash1によって制御されない遺伝子群も多く含まれることがわかった。本データは、今後、Hes1やMash1と協調して静止状態の神経幹細胞培養を活性化する因子を探索する上で重要な基盤となる。
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