ScaleS試薬を用いた固定組織透明化技術を開発した。ScaleA2試薬による固定組織(主として脳)の膨張・長い処理時間を大幅に改善することができた。ScaleS試薬が、透明化が難しい老齢動物脳や高齢のヒト脳由来の固定組織についても適応可能であることを確認した。また、ScaleS試薬が組織にマイルドに作用し、透明化後も組織の超微形態を良好に保つことがわかった。特に後者に関連しては、光学顕微鏡で可視化された特徴的構造部位を電子顕微鏡に持ち込んでズームインすることが可能になった。特に神経組織におけるシナプスなどの解析に効果を発揮する。 組織透明化技術にとって、透明化した組織の観察から得られる大容量の画像データ処理は大きな課題であり、効率的なハードウェアの構築ならびにこれまでの概念を超えた画像のタイリングソフトなどの新たな専用ソフトウェアの開発が重要な鍵である。この点について種々の研究機関を含めて情報交換を行い、一方で、独自の方法の開発を進めた。 3次元免疫組織染色についてAbScale法というプロトコールを、3次元組織化学染色についてChemScale法というプロトコールを開発した。これらの方法により、老齢化とともにアミロイドプラークを多発するアルツハイマー病モデルマウス脳の全半球、さらにはアルツハイマー病患者由来の3-4 mm角の大脳組織ブロックで、免疫組織染色および組織化学染色が可能になった。染色後の組織をScaleS試薬による透明化技術と組み合わせることで3次元的に染色の様子を観察することができ、さらには同じ組織から特徴的な染色像を示す部位を容易に切り出し、前述したように電子顕微鏡観察用のサンプルとして移行させることが可能になった。引き続きアルツハイマー病を始めとした神経変性疾患モデルマウス、またヒト組織を用いて特徴的な3次元免疫染色を行い詳細な解析を行った。
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