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2013 年度 実績報告書

シナプス前性タンパク質のリン酸化による脳の機能制御機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 24240055
研究機関北里大学

研究代表者

高橋 正身  北里大学, 医学部, 教授 (10318826)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワードタンパク質リン酸化 / プロテインキナーゼC / ノックインマウス / てんかん / 脳波測定 / 行動異常 / SNAREタンパク質 / 抗てんかん薬
研究概要

PKCによるリン酸化部位を変異させたSNAP-25のノックインマウスの脳に慢性電極を装着し、21個体について最長62日間の皮質および海馬の脳波の連続測定を行った。SNAP-25ノックインマウスは生後23.1 ± 3.1日に全身痙攣発作を多発した。全身痙攣発作に先立って、けいれんを伴わない発作は発症しなかったが、皮質ではEthosuximideで抑制される欠伸発作様のスパイクバーストが多発しており、海馬では徐波睡眠期の脳波で3 Hz成分の割合が著しく増加していた。全身痙攣発作の多発は36.7 ± 22.8時間後に止まり、Latent periodに移行した。Latent periodの前期では皮質および海馬でスパイク発射が多発したが、徐々に減少していった。この時期には海馬で抑制のみが起こる抑制発作が見られることもあった。Latent periodの後期には皮質でスパイクバーストが起こるようになることもあったが、次の全身痙攣発作の発症との間に有意な相関は認められなかった。Latent periodが91.5 ± 28.5時間続いた後、再び全身痙攣発作が2年近い生涯に渉って周期的に多発するようになった。皮質でスパイク発射は全身痙攣発作が発症する日に限られるのに対し、海馬では全身痙攣発作の発症の有無にかかわらず、連日スパイクバーストが観察され、1日のうち海馬でスパイクバーストが起こる期間の割合は日齢が進むに従い長期化し、生後50日付近で約6割に達した。SNAP-25ノックインマウスは顕著な不安様行動を示すが、不安様行動の発症は先天的ではなく、全身痙攣発作の多発の結果、数日以内に脳内で引き起こされる何らかの変化に起因する2次的な表現系であると考えられた。以上の結果、SNAP-25のリン酸化部位が欠失すると皮質および海馬の脳波に異常が生じるような脳内変異が起こり、その結果引き起こされる全身痙攣発作の多発により脳のてんかん化や不安様行動の発症が引き起こされると結論された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

SNAP-25のリン酸化部位のノックインマウスは不安様行動の発症やストレス環境への不適合性などの行動異常を示す。これまでに我々はSNAP-25のリン酸化がPKC依存的なドーパミン放出の制御に関わっていることを明らかにしたが、今年度我々は不安様行動の発症は遺伝子変異の直接的な結果ではなく、全身痙攣発作の多発によって引き起こされる二次的なものであることを明らかにした。全身痙攣発作が多発する前に生じている表現系がSNAP-25のリン酸化部位の欠失に起因する可能性が高いと考えられるが、生後20週齢以前のSNAP-25ノックインマウスの脳波測定を行うことにより、大脳皮質および海馬脳波に異常が生じていることを明らかにすることが出来た。この異常がどのような分子機序に起因するかについては、予備的な実験から全身発作の発症以前に脳のAMPA型グルタミン酸レセプターの細胞内分布に異常が生じていることを見出している。SNAP-25は神経伝達物質の放出ばかりではなく、開口放出によるイオンチャネルやレセプターなどの細胞膜の組み込みに関わっていることが明らかにされていることから、これらの分子の細胞膜への組み込み制御にSNAP-25のリン酸化が関与している可能性があるが、その検証は今後の課題として残されている。
SNAP-25ノックインマウスの脳波を長期測定することにより、脳のてんかん化と重篤化の過程を定量的に理解できるようになりつつある。さらに抗てんかん薬をシリンジポンプを用いて長期間連続投与するシステムを樹立したので、今後は観察された様々な異常脳波への抗てんかん薬の作用を比較して調べることが可能となった。

今後の研究の推進方策

SNAP-25ノックインマウスの脳波解析をさらに進め、脳のてんかん化や重篤化の詳細な過程を定量的に明らかにする。また欠神発作の原因とされる視床からの脳波測定も行い、全身痙攣発作発症以前に見られる大脳皮質のスパイクバーストの起源を明らかにする。大脳皮質や海馬で見られる異常脳波の発症機序を探るため、皮質や視床、海馬のCaチャネル、グルタミン酸レセプター、GABAレセプターの局在をイムノブロット法や免疫組織化学法で調べる。さらに大脳皮質や視床、海馬などの神経細胞を培養し、これら膜機能分子の細胞内分布に異常が生じているかを、免疫細胞染色や選択的ビオチン化法などを用いて調べる。
SNAP-25ノックインマウスに様々な抗てんかん薬を長期間連続投与し、異常脳波にどのような変化が生じるかを調べると共に、全身痙攣発作の発症や脳のてんかん化、重篤化にどのような影響が現れるかを調べる。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2014 2013 その他

すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (5件)

  • [雑誌論文] Stress-induced phosphorylation of SNAP-25.2014

    • 著者名/発表者名
      Yamamori S, Sugaya D, Iida Y, Kokubo H, Itakura M, Suzuki E, Kataoka M, Miyaoka H, Takahashi M
    • 雑誌名

      Neurosci Letter

      巻: 561 ページ: 182-187

    • DOI

      10.1016/j.neulet.2013.12.044

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Direct association of the unique C-terminal tail of transmembrane AMPA receptor regulatory protein γ-8 with calcineurin.2014

    • 著者名/発表者名
      Itakura M, Watanabe I, Sugaya T, Takahashi M
    • 雑誌名

      FEBS J

      巻: 281 ページ: 1366-1378

    • DOI

      10.1111/febs.12708

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Tyrosine 402 Phosphorylation of Pyk2 Is Involved in Ionomycin-Induced Neurotransmitter Release.2014

    • 著者名/発表者名
      Zhang Z, Zhang Y, Mou M, Chu S, Chen X, He W, Guo X, Yuan Y, Takahashi M, Chen N
    • 雑誌名

      PLoS ONE

      巻: 9 ページ: e94574

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0094574

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Protein phosphatase 2A dephosphorylates SNAP-25 through two distinct mechanisms in mouse brain synaptosomes.2013

    • 著者名/発表者名
      Iida Y, Yamamori S, Itakura M, Miyaoka H, Takahashi M
    • 雑誌名

      Neurosci Res

      巻: 75 ページ: 184-189

    • DOI

      10.1016/j.neures.2013.01.002

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Synaptosomal-associated protein 25 mutation induces immaturity of the dentate granule cells of adult mice.2013

    • 著者名/発表者名
      Ohira K, Kobayashi K, Toyama K, Nakamura HK, Shoji H, Takao K, Takeuchi R, Yamaguchi S, Kataoka M, Otsuka S, Takahashi M, Miyakawa T.
    • 雑誌名

      Mol Brain

      巻: 6 ページ: 12

    • DOI

      10.1186/1756-6606-6-12

    • 査読あり
  • [雑誌論文] NMDA receptor-dependent recruitment of calnexin to the neuronal plasma membrane.2013

    • 著者名/発表者名
      Itakura M, Tsujimura J, Yamamori S, Ohkido T, Takahashi M
    • 雑誌名

      Neurosci Lett

      巻: 550 ページ: 173-178

    • DOI

      10.1016/j.neulet.2013.06.064

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Calmodulin-dependent regulation of neurotransmitter release differs in subsets of neuronal cells.2013

    • 著者名/発表者名
      Ando K, Kudo Y, Aoyagi K, Ishikawa R, Igarashi M, Takahashi M
    • 雑誌名

      Brain Res

      巻: 1535 ページ: 1-13

    • DOI

      10.1016/j.brainres.2013.08.018

    • 査読あり
  • [学会発表] げっ歯類BdnfアンチセンスRNAの機能解析

    • 著者名/発表者名
      熊ノ郷 晴子、水井 利幸、清末 和之、高橋 正身、小島 正己
    • 学会等名
      Neuro 2013
    • 発表場所
      京都
  • [学会発表] 海馬CA1領域でのシナプス前短期可塑性におけるSNAP-25のリン酸化の役割

    • 著者名/発表者名
      片山 憲和、山森 早織、深谷 昌弘、渡辺 雅彦、高橋 正身、真鍋 俊也
    • 学会等名
      Neuro 2013
    • 発表場所
      京都
  • [学会発表] 歯状回ニューロンの成熟異常を示すマウスの海馬におけるBDNF-MAPK シグナル経路の調節異常

    • 著者名/発表者名
      小清水 久嗣、大平 耕司、萩原 英雄、高雄 啓三、高木 豪、片岡 正和、石井 俊輔、高橋 正身、宮川 剛
    • 学会等名
      Neuro 2013
    • 発表場所
      京都
  • [学会発表] てんかんを自然発症するモデルマウスの脳波の長期間解析

    • 著者名/発表者名
      高橋正身、渡辺滋、斎藤正範、山森早織、飯田諭宜、宮岡等
    • 学会等名
      第47回日本てんかん学会学術集会
    • 発表場所
      北九州
  • [学会発表] PKC-dependent phosphorylation of SNAP-25 is essential for the positive regulation of dopamine release in mouse brain。

    • 著者名/発表者名
      Saori Yamamori, Suguru Kanno and Masami Takahashi
    • 学会等名
      北米神経科学会大会
    • 発表場所
      サンディエゴ(米国)

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公開日: 2015-05-28  

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