研究課題
SCN-Gene Project による視交叉上核からのリズム遺伝子の探索を行った。具体的には、マウス視交叉上核のAffimetrix DNA microarray によるスクリーニングの後、視交叉上核での発現を定量形態学的にin situ hybridization の手法で確認し、視交叉上核に強く発現する遺伝子を得て、続いて、ノックアウトマウスの作成および行動解析によるリズム異常を来たすものを同定する。このプロジェクトにより、V1a受容体、V1b受容体、低分子量Gタンパク質、電位依存性カルシウムチャネル制御因子のノックアウトマウスを作製した。そのうち、V1a-/-V1b-/-マウスに時差を与えると、V1a-/-V1b-/-マウスは瞬時に新しい明暗位相に変位した(野生型マウスでは時差是正に10日要する)。単独V1a-/-マウスや、単独V1b-/-マウスでは、時差同調時間は、野生型マウスとV1a-/-V1b-/-マウスの中間の値を示すので、V1aとV1bの両遺伝子とも時差形成に関与すると考えられる。この遺伝子以外に、このプロジェクトで得られた遺伝子は、機能未知の低分子量Gタンパク質があり、このノックアウトマウスは外界の明暗周期にうまく同調できないなどの異常な行動リズムが認められた。続いて、視交叉上核にメチル化抑制剤を投与すると、リズム周期が延長することが解明された。この分子機構を解明するため、細胞系でリズムを観察したところ、RNAメチル化の関与が強く疑われた。具体的には、mRNAのアデノシンN6位のメチル化RNA Methyl-6-adenosine(m6A)がリズムの周期に関与していることが解明された(Cell 2013)。この新しいエピトランスクリプトームによる制御のさらなる解明が望まれる。
1: 当初の計画以上に進展している
SCN-Gene Projectにより得られた、V1aV1b受容体ノックアウトマウスでは、明暗環境を変化させたときに生じる時差が完全に消失することを明らかにし、2013年Science誌に掲載された。この分子は、時差の分子メカニズムとしては世界初の成果である。今後、バソプレッシンV1aV1bシグナル伝達の時差発生の詳細なシグナル伝達の分子メカニズムを、RNA,タンパク質レベルの制御機構を含め解明するとともに、新たな時差スクリーニングを開始して時差関連分子を同定し、時差の全貌解明を目指す。
このプロジェクトで進行中の課題に、機能未知の低分子量Gタンパク質、カルシウムシグナル制御物質がある。これらの物質はすでにノックアウトマウスが完成しており、今後、詳細な生体リズムの解析を行ない、これら物質の生体リズム生成、修飾への働きを明らかにする。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
Science
巻: 342 ページ: 85-90
10.1126/science.1238599
Cell
巻: 155 ページ: 793-806
10.1016/j.cell.2013.10.026
日本臨床
巻: 71 ページ: 705-710
巻: 71 ページ: 2062-2067
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2013_1/131004_1.htm
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2013_1/131108_1.htm