研究概要 |
平成24年度は、予定通り、自己決定感の内発的動機づけへの影響を調べる課題を作成し、31名の被験者で行動実験を行った。この実験では、毎試行で呈示される2つの異なるデザインのストップウォッチのうち、その試行で使うストップウォッチを自分で選べる自己選択条件と、コンピュータによって選ばれる強制選択条件とがランダムな順序で用意された。事後的にどちらがより楽しかったかを尋ねたところ、自己選択条件の方が楽しかったと答えた被験者が有意に多かった(p<0.0001, binomial test)。また、課題自体の困難度は条件間で全く差が無かったにも関わらず、成功率も自己選択条件の方が、強制選択条件よりも有意に高かった (p<0.05, t-test)。31名のうち27名については、fMRIを用いた脳計測実験も行った。その結果、自己選択条件の試行が始まる手がかりを呈示した直後の期間に、強制選択条件の手がかり呈示直後と較べて、有意に高い活動が、帯状回前部、島皮質、線条体、および中脳において見られた。このことは、先行研究(Leotti & Delgado, 2011)と一致する。また、成功/失敗の結果が呈示される期間の活動では、失敗に対する前頭前野腹内側部における活動低下が、自己決定感によって消失することが分かった。この結果は、自己選択条件においては、特に失敗に対するネガティブな感情が抑えられ、次の試行で成功するための情報としてポジティブに捉えることによって、動機づけと成功率を高められるプロセスに、前頭前野腹内側部が独自の重要な機能を有していることを示唆している。これらの研究成果は、日本神経科学大会で発表したほか、脳と心のメカニズム冬のワークショップでの招待講演でも発表し、現在は学術雑誌に論文投稿中である。
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