研究課題/領域番号 |
24240070
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
柴田 隆行 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10235575)
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研究分担者 |
林 照剛 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00334011)
木村 剛 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (10393216)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 走査型プローブ顕微鏡 / 細胞機能解析 / 細胞操作 / バイオMEMS |
研究概要 |
生命機能機序の新たな知の創出を支援するキーテクノロジーとして,細胞の機能発現過程における様々な生体機能情報(物理量・化学量)を空間的・時間的に可視化(細胞機能イメージング)する多機能走査型バイオプローブ顕微鏡の開発を目的として実施した.平成25年度に得られた成果は以下のとおりである.(1)バイオプローブを用いた細胞の力学的特性評価を行った.細胞の見かけのヤング率はプローブのばね定数に大きく依存することがわかった.現状のバイオプローブでは,ばね定数(150N/m)が大きいために細胞のヤング率を過大に評価する結果となったが,生細胞と固定細胞の相対的な差異は評価できることを示した.(2)細胞膜穿孔時に振動を加えることで,低侵襲での穿刺が可能であることを実証した.押込み量500nm以下での穿刺確率を比較した結果,振動を印加しない場合(穿刺確率22%)に比べて,振動を印加した場合には,穿刺確率が73%と大幅(3倍程度)に改善した.また,細胞膜穿孔後の細胞の生存確率は100%であることを示した.(3)基礎実験として,静電的相互作用によってAgナノ粒子(粒径60nm)を固定化したガラスピペットを細胞(HeLa)内に挿入し,ラマンスペクトルを測定した結果,細胞内のタンパク質および細胞脂質に起因するスペクトルの観察に成功した.この結果は,表面増強ラマン散乱(SERS)イメージングによる生体分子の細胞内ダイナミクス観察手法をバイオプローブによって実現できることを示唆するものである.(4)ガラスピペットを用いた基礎実験から,イオン電流の変化による細胞膜穿孔の可否や,穿刺前後のイオン電流の変化率から細胞膜の損傷状態を把握できる可能性を見出した.さらに,細胞膜の穿孔が低損傷で行われた場合には,交流電場駆動力を利用することが,生体分子の細胞内デリバリーの実現には不可欠であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案技術の最も特徴的な生化学的操作を行うための電場駆動力を利用した細胞内デリバリー技術についての多くの有益な知見が得られており,イオン電流の特徴的な変化を捉えることで,細胞膜穿孔および細胞内への生体分子の導入を行う一連のプロセスの自動化が行える見通しを得た.また,振動援用効果によって細胞膜穿孔確率および生存確率が大幅に向上することが実証され,本提案技術が実用的に有効であることを示すことができた.さらに,Agナノ粒子の表面増強ラマン散乱(SERS)効果によって細胞内での生体分子のその場観察が可能であるという重要な知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
おおむね当初の研究計画通りに実施するとともに,既設の倒立顕微鏡上での表面増強ラマン散乱(SERS)イメージングを行うための光学系を設計し,SERS分光システムを構築する.また,バイオプローブのナノニードル先端径を再現性よく作製する方法として,新たに提案する段付きニードルの作製プロセスを確立する.さらに,高感度力学応答計測を実現するためのカンチレバー厚み方向の薄型化プロセスについても検討を行う.細胞実験としては,バイオプローブを用いた低侵襲細胞内デリバリー技術(振動援用細胞膜穿孔+電場駆動力分子搬送)の実現を目標とし,生体分子の細胞内導入確率および導入量の定量的評価を行う.さらに,細胞生存率(バイアビリティ)および黄色蛍光タンパク質(YFP)変異体(Venus)の発現効率につても調査し,本提案技術の有効性を実証する.
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